夷講えびすこう)” の例文
だから私は「荒布橋あらめばし」の冒頭に出てくるつばめの飛ぶ様子や、「夷講えびすこう」の酒宴の有様を叙するくだりに出会った時、大変驚ろいたのです。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうすこし早く三人が出て来ると、夷講えびすこうに間に合って、大伝馬町おおてんまちょうの方に立つべったら市のにぎわいも見られたとかみさんはいう。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やはり「お」の字のおかみの話によれば、元来この町の達磨茶屋だるまぢゃやの女は年々夷講えびすこうの晩になると、客をとらずに内輪うちわばかりで三味線しゃみせんいたり踊ったりする
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寺では夷講えびすこうに新蕎麦をかみさんが手ずから打って、酒を一本つけてくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
だから幼時の記憶として其儘そのままを叙述していない「夷講えびすこうの夜の事であった」に至ってかえって失望しようとしたのです。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手桶ておけを提げて井戸に通う路は、柿の落葉で埋まった日もあり、霜溶しもどけのぐちゃぐちゃで下駄の鼻緒を切らした日もあり、夷講えびすこうの朝は初雪を踏んで通いました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夷講えびすこうの翌日、同僚の歴史科の教師W君に誘われて、山あるきに出掛けた。W君は東京の学校出で、若い、元気の好い、書生肌の人だから、山野を跋渉ばっしょうするには面白い道連だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)