天頂てっぺん)” の例文
帝都の辻々に貼り出される号外のビラは、次第に大きさを加え、鮮血せんけつで描いたような○○が、二百万の市民を、ことごとく緊張の天頂てっぺんへ、さらいあげた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御城の北一里にあるつるぎみね天頂てっぺんまで登って、其所の辻堂つじどう夜明よあかしをして、日の出を拝んで帰ってくる習慣であったそうだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天頂てっぺんいささか雲切れがして青が見えるが、それでも雲の動きが早いので、いつ隠れるか判らない。冬外套の襟を立てて、ガランとした広い路を歩く。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
どこの町でも魚類売さかなうりは行商人あきないにん花形役者はながたで……早乙女あんにゃんが採った早苗なえのように頭の天頂てっぺん手拭てのごいをチョット捲き付けて
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兄貴のお袋さんも、小永井の旦那も、卒中ということになっているが、二人とも髪がグッショリ濡れていたっていうし、頭の天頂てっぺんには少しばかり黒血が溜っていたそうだ。
……じっ天頂てっぺんの方を見ていますとね、さあ、……五階かしら、屋の棟に近い窓に、女の姿が見えました。部屋着に、伊達巻といった風で、いい、おいらんだ。……串戯じょうだんじゃない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とその返事は、数丈上の梢の天頂てっぺんから下へ投げられた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
課長は大湯呑を左手に移し、右手の太い指を延ばして帳簿の天頂てっぺんから長くはみ出している仕切紙をたよりにして帳簿のまん中ほどをぽんと開いた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頭の天頂てっぺんの附近に二銭銅貨大の禿はげ——禿ではない、毛が生えそろわなくてみじかいのだ、それが揃いも揃って目につく。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは背の高い杉の二本柱の天頂てっぺんに、まるで水牛の角を真直まっすぐにのばしたような、ひどく長くて不恰好な銅の針がニューッと天に向って伸びているのだった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
「わッしょい、わッしょいッ」と、背の高い、その電柱の天頂てっぺんまで、人技とは思われぬ速さで、よじのぼっていった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ一人、あまり上手ではない浪花節を、頭の天頂てっぺんからでるような声でうたっている客があるきりだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はそれでも、ロマンチストだからかまわないようなものの、かれ帆村なるものは、商売が私立探偵ではないか。帽子の天頂てっぺんから靴の裏底まで、およそリアリズムであるべきだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)