大戸おおど)” の例文
見世は大戸おおどが下ろされて薄暗うすぐらく、通された離れの座敷には、お由利の床がまだそのままに、枕辺まくらべに一本線香と、水が供えてあるばかり。
郊外の朝顔売りは絵にならない。夏のあかつきの薄いもやがようやくげて、一町内の家々が大戸おおどをあける。店を飾り付ける。水をまく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手塚さんは、ときどき鍵で蔵の大戸おおどをひらいて、中にはいり、金庫の中をあらためるのですが、夜光の時計はちゃんとその中にあります。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
観音様は夜通しあいているのかと思ったら、六時頃には大戸おおどが降りてしまうのであった。仲店までには色々な夜店が出ている。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一足先へ駈出して、見覚えた、古本屋の戸へ附着くッついたが、店も大戸おおども閉っていた。寒さは寒し、雨は降ったり、町はしんとして何処どこにもの影は見えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
表の大戸おおどは、ほこりがこびりついていて、動く様子もない。裏手に小さい扉がついていて、敷居しきい生々なまなましい泥靴の跡がついている。これを引張ったが、明かない。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
渋川から、伊香保いかほ街道に添うて、道もない裏山を、榛名はるなにかかった。一日、一晩で、やっと榛名を越えた。が、榛名を越えてしまうと、ぐ其処に大戸おおどの御番所があった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「申し上げます、根岸の大戸おおどさまがお見えになりましたが——」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうしておいて、カニ怪人は書庫の大戸おおどにちかより、錠前をいじっていましたが、どういうやりかたをしたのか、たちまち錠がはずれ、大戸がひらきました。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一応は辞退したものゝ、要次郎に送られてゆくことはおせきも実はうれしかつた。これも笑ひながら表へ出ると、すすはきを済せて今夜は早く大戸おおどをおろしてゐる店もあつた。
デパートが、まだげんかんの大戸おおどを開いたばかりのころ、デパートの事務所へ、「志摩の女王」の出品者である有名な真珠王その人が、ひとりの若い背広の男をつれてたずねてきました。
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)