夜具よのもの)” の例文
いやその相手なき酒宴には、とうに飽いて、杯盤も遠くにやり、しとねの横には、脇息がわりに、白絹の夜具よのものを厚く折りかさねていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
善美を尽くしたお寝間には、ほのかに絹行灯きぬあんどんともっていた。その光に照らされて、美々しい夜具よのものが見えていたが、その夜具のえりを洩れて、上品な寝顔の見えるのは金一郎様が睡っておられるのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お付きの女房方のため、特にとも寄りへ、小さい板囲いをしつらえおけ。またお座所には夜具よのものも入れ、波除けを忘れるな」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ白い夜具よのものと白い枕とが、しいんと、虚空こくうの底の物みたいにあるにはあった。枕は落ちて、行儀をはずし、ふすまはその下に何もないかのようでひらべッたい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗い苫のおくには、ぷんと病臭のようなものがこもっていた。小さい灯皿が横木にかっている。むしろの上に、雑巾ぞうきんのような薄べったい夜具よのものが敷いてあった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸の高さにまで折り畳んだ夜具よのものに、両のひじ苦患くげんの顔を乗せて、ッ伏せにもたれて坐ったきりなかたちだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、余りの冷えに、また起きて、みずから納戸なんどのうちの夜具よのものを一枚かかえ、ふたたび正成の寝所へもどって、そっと寝顔をのぞきながら、ふんわり、それを良人へ着せかさねた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)