夕映ゆうば)” の例文
あかねの色に夕映ゆうばえて美しい遠い、港あたりの上空を、旦那はステッキで指ざしながら、三太の心を奪うような威勢のいい声で言う。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
美しい色をした撫子なでしこばかりを、唐撫子からなでしこ大和やまと撫子もことに優秀なのを選んで、低く作ったかきに添えて植えてあるのが夕映ゆうばえに光って見えた。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
西に残る夕映ゆうばえと、東から昇る月の光をたよりに、まだ灯は点けませんが、お常と佐太郎の如何わしい態度は、酔った万兵衛からもよく見えます。
そのとき、ケーの、おおきなこえが、夕映ゆうばえのそらに、はずみかえって、ビーや、ワイと三にんが、こちらへかけてきました。
考えこじき (新字新仮名) / 小川未明(著)
三月になって、六条院の庭のふじ山吹やまぶきがきれいに夕映ゆうばえの前に咲いているのを見ても、まずすぐれた玉鬘の容姿が忍ばれた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はなやかにひぐらしの鳴く声を聞きながら、撫子なでしこ夕映ゆうばえの空の美しい光を受けている庭もただ一人見ておいでになることは味気ないことでおありになった。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
縁のすだれを上げて夕映ゆうばえの雲をいっしょに見て、女も源氏とただ二人で暮らしえた一日に、まだまったく落ち着かぬ恋の境地とはいえ、過去に知らない満足が得られたらしく
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
八重の山吹やまぶきの咲き乱れた盛りに露を帯びて夕映ゆうばえのもとにあったことを、その人を見ていて中将は思い出した。このごろの季節のものではないが、やはりその花に最もよく似た人であると思われた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)