太刀たち持つわらべ、馬の口取り、仕丁しちょうどもを召連れ、馬上そでをからんで「時知らぬ山は富士の根」と詠じた情熱の詩人在原業平ありわらのなりひらも、流竄りゅうざんの途中に富士を見たのであった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
信輔筆の六歌仙、在原業平ありわらのなりひらもそこにある筈だ……五つ六つこれで七つ。よし、この廊下を曲がるんだな
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
といいかけて、半ば隠れて顔は見えぬが、在原業平ありわらのなりひらの目かずらかたおもかげで、あとなる娘を顧みた。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これをこころみに、在原業平ありわらのなりひらの、「飽かなくにまだきも月の隠るるか山の逃げて入れずもあらなむ」(古今・雑上)などと比較するに及んで、更にその特色が瞭然りょうぜんとして来るのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
例えば在原業平ありわらのなりひら悠遊ゆうゆうしていたころには、おに一口ひとくちいてんけりといったが、大江山の酒顛童子しゅてんどうじに至っては、都に出でて多くの美女を捕え来りしゃくをさせて酒を飲むような習癖があったもののごとく
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとえば我が王朝の歌人在原業平ありわらのなりひらは、日本無比な情熱的な恋愛詩人で、かつ藤原氏の専横に鬱憤うっぷんしつつ、常に燃ゆる反感をいだいていた志士であり、あたかも独逸ドイツの詩人ハイネに比すべき人であったが
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
……在原業平ありわらのなりひら僧正遍昭そうじょうへんじょう喜撰法師きせんほうし文屋康秀ふんやのやすひで大友黒主おおとものくろぬし小野小町おののこまち……六人の姿が描かれてある。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)