団十郎だんじゅうろう)” の例文
また時々は夫人に芝居しばい見物をすすめて、『歌舞伎座かぶきざ団十郎だんじゅうろう、たいそう面白いと新聞申します。あなた是非に参る、と、話のお土産』
そぞろに蔵前くらまえの旦那衆を想像せしむる我が敬愛する下町したまちの俳人某子なにがししの邸宅は、団十郎だんじゅうろうの旧宅とその広大なる庭園を隣り合せにしている。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
専門には相違ないが、例えば芝居を見ても団十郎だんじゅうろうとか菊五郎きくごろうとかいう名人がおっても、これを批評するものがないとその真の技倆ぎりょうは分らない。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
せん団十郎だんじゅうろう菊五郎きくごろう秀調しゅうちょうなぞも覚えています。私がはじめて芝居を見たのは、団十郎が斎藤内蔵之助さいとうくらのすけをやった時だそうですが、これはよく覚えていません。
文学好きの家庭から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もし人がその七代目団十郎だんじゅうろう贔屓ひいきにするのを知っていて、成田屋なりたやと声を掛けると、枳園は立ち止まって見えをしたそうである。そして当時の枳園はもう四十男であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
同時に、本花道からしずかにあゆみ出た切り髪の女は太宰だざい後室こうしつ定高さだかで、眼の大きい、顔の輪郭のはっきりして、一種の気品をそなえた男まさりの女、それは市川団十郎だんじゅうろうである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
延若えんじゃくだの団十郎だんじゅうろうだの蝦十郎えびじゅうろうだの、名優の名がそのころ彼の耳についていた。金が夢のようにつかいはたされて、彼らが零落の淵に沈む前に、そうしたこの町相当の享楽時代があった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは、たしか先代の左団次さだんじであったらしい。そうして相手の弁慶はおそらく団十郎だんじゅうろうではなかったかと思われるが、不思議と弁慶の印象のほうはきれいに消えてなくなってしまっている。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大勢の家族ですから、部屋数はあっても、食事の時などなかなかの騒ぎです。下宿していた次兄も大抵来ていられて、夜など家人を集めて声色こわいろをおつかいになります。団十郎だんじゅうろうがお得意でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
元禄年間は元祖団十郎だんじゅうろうが創意せる荒事の新技芸都会の人目じんもくを驚かしたる時なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)