喰切くいしば)” の例文
この騒ぎが一団ひとかたまり仏掌藷つくねいものような悪玉あくだまになって、下腹から鳩尾みずおちへ突上げるので、うむと云って歯を喰切くいしばって、のけぞるという奇病にかかった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト歯を喰切くいしばッて口惜くちおしがる。その顔を横眼でジロリと見たばかりで、お勢はすまアし切ッて座舗を立出でてしまッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と思い返してそばに寄り、倒れし男の面体を月影にてよく見れば、かねて知己ちかづきなる八蔵の歯を喰切くいしばりて呼吸いき絶えたるなり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今も今母親の写真を見て文三は日頃喰付たべつけの感情をおこし覚えずも悄然しょうぜんと萎れ返ッたが、又悪々にくにくしい叔母の者面しゃっつらを憶出して又熱気やっきとなり、こぶしを握り歯を喰切くいしば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
(いや、ますます降るわえ、奇絶々々。)と寒さにふるえながら牛骨が虚飾みえをいうと(妙。)——と歯を喰切くいしばって、骨董こっとうが負惜しみに受ける処だ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よって更に出直して「大丈夫」ト熱気やっきとしたふりをして見て、歯を喰切くいしばッて見て、「一旦思い定めた事をへんがえるという事が有るものか……しらん、止めても止まらんぞ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
歯を喰切くいしばった獅噛面しがみづらは、額に蝋燭ろうそくの流れぬばかり、絵にある燈台鬼という顔色がんしょく
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)