喉仏のどぼとけ)” の例文
旧字:喉佛
細い喉で、尖った喉仏のどぼとけの動いているのが見える。その時、その喉から、からすの啼くような声が、あえぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
テナルディエは襟飾えりかざりとしてるぼろ布を喉仏のどぼとけの所まで引き上げた。それは真剣になった様子を充分に示す身振りだった。そして言った。
「なんとも驚きいったものです」と、コン吉とタヌは声をそろえて感嘆すると、会長はうわははは、と喉仏のどぼとけも見えるような大笑いをしてから
「言うよ、言いますよ、——言わなくてどうするものですか、——おういてえ、喉仏のどぼとけがピリピリするじゃありませんか」
男は、眼と鼻をクシャクシャとゆがめて、両方の腕を天井へ上げた。喉仏のどぼとけの見えるような大きな口から、欠伸あくびが出た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その刃先がブッツリと喉仏のどぼとけの下へ刺されたとたん、犠牲者の全身を貫いて、波のような痙攣が伝わったが、次の瞬間にはいとも穏かな、絶対の平和が帰って来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのなかに、どこの何者だか痩せ形の青年が一人、ちょっぴり人参色の頬髯を生やし、つっ立っていて、変に喉仏のどぼとけへからませた発音でもって何やら声高に英語を喋っていた。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は躊躇ちゅうちょを恐れるものの如く、思いきってグラスを唇に当てた。瞑目めいもくした青ざめた顔が、勢いよく天井を振り仰ぐ。グラスの液体がツーッと歯と歯の間へ流れ込む。喉仏のどぼとけがゴクンと動く。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さうしてとうとうしまひに、それが、喉仏のどぼとけの下を、無理にすりぬけたと思ふと、今度はいきなり、どぜうか何かのやうにぬるりと暗い所をぬけ出して、勢よく外へとんで出た。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)