善男善女ぜんなんぜんにょ)” の例文
美濃紙みのがみ八枚どり大に刷った大黒天像を二枚ひとつつみにし、しかるべき有縁無縁うえんむえん善男善女ぜんなんぜんにょの家にひそかに頒布はんぷするもので、添書そえがき
そこで女はいら立たしいながらも、本堂一ぱいにつめかけた大勢の善男善女ぜんなんぜんにょまじって、日錚和尚にっそうおしょうの説教にうわそらの耳を貸していました。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうすると、善男善女ぜんなんぜんにょが木喰五行上人の再来のお姿を拝みたいというので、与八のこの新屋へお詣りに押しかけて来ました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紫の紐をつけた長柄ながえ駕籠かごに乗り、随喜の涙にむせぶ群集の善男善女ぜんなんぜんにょと幾多の僧侶の行列に送られて、あの門の下をくぐって行った目覚しい光景に接した事があった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに娘が十六七、女盛おんなざかりとなって来た時分には、薬師様が人助けに先生様のうちへ生れてござったというて、信心渇仰しんじんかつごう善男善女ぜんなんぜんにょ? 病男病女が我も我もとける。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東国から、九州四国から、また越路こしじの端からも、本山参りの善男善女ぜんなんぜんにょの群が、ぞろぞろと都をさして続いた。そして彼等も春の都の渦巻の中に、幾日かを過すのであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
岩から岸に渡した危ない板を踏みながら元の路へ引き返す時に、兄さんは「善男善女ぜんなんぜんにょ」という言葉を使いました。それが雑談じょうだん半分の形容詞でなく、全くそう思われたらしいのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)