ぼう)” の例文
せっかくの生飯も、昭青年は苫船の中の美しい姫にやってしまうので、淵の鯉は、いつも待ちぼうけです。しまいにはあきらめて鯉達は斎の鐘に集らなくなりました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしその日になりその時間になると、クリストフは待ちぼうけをくわされた。当てがはずれた。彼はジョルジュと再会することに子供らしい喜びを覚えていた。
ああ今晩も待ちぼうけ。箱火鉢で茶をあたためて時間はずれの御飯をたべる。もう一時すぎなのに——。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして彼を自分から離すまいとして、彼と約束して置きながら、わざと彼を待ちぼうけさせた。
聖家族 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
さうして私と保持さんは始めから一緒に行つて、新富町についてから哥津ちやんに散々待ちぼうけを喰されたあげく、這入はいつた時にはもう満員ですわる所がないやうな有様でした。
妾の会つた男の人人 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
彼は二時間あまりも改札口で待ちぼうけをくわされたであろう。駄目と分って、彼は大憤慨だいふんがいていでそこを出たが、なにぶんにも天災地変のことであり、人力じんりょくではどうすることもできなかった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風太郎が、ここの門を入りさえすれば、どんなに姿を変えていても、平次の捕縄をのがれようはありません。が三日目の昼過ぎまで待ちぼうけを喰わして、何の音沙汰もないのはどうした事でしょう。
夜も昼も物思いに入道はぼうとしていた。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
春は草穂にぼう
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)