可悩なやま)” の例文
可悩なやましげなる姿の月に照され、風に吹れて、あはれ消えもしぬべく立ち迷へるに、淼々びようびようたる海のはしの白くくづれて波と打寄せたる、えんあはれを尽せる風情ふぜいに、貫一はいかりをも恨をも忘れて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
驚きに驚かされし静緒は何事ともわきまへねど、すいすべきほどには推して、事の秘密なるを思へば、まらうどの顔色のさしも常ならず変りて可悩なやましげなるを、問出でんもよしあしやをはかりかねて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
控へたりし人の出でざるはあらざらんやうに、往来ゆききの常よりしきりなる午前十一時といふ頃、かがみ勝に疲れたる車夫は、泥の粉衣ころも掛けたる車輪を可悩なやましげにまろばして、黒綾くろあや吾妻あづまコオト着て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)