はばかり)” の例文
やがてはばかりの板戸を鳴らして額へ太い皺を寄せた器量のよくない血色の悪い四十女が、乳呑児を横抱きにして、手も洗わないで出てきた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
祖母はその間にはばかりへゆくふりをして、すっかり家中うちじゅうを見てきた。外に見張みはりが一人いるのが蔵の二階の窓から月の光りで見えた。
「涼みに出る時節でもないし、はばかりを取りちがえるそなたでもないし、まさか、男と忍び合うような大外だいそれた小娘でもあるまいし、のう——深雪」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そこで初めて、人びとはこれが俗に云う髷きりだと云うことを知ったが、それ以来はばかり何人だれも使わなくなった。
簪につけた短冊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ややあって、どこかで一ツ咳払せきばらいがしたかと思うと、はばかりの戸のさるがカタンといった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ私は田舎などへ帰りゃしませんよ。嫁にだって行きゃしません。家で怒ってかまわなくなったって何でもありゃしない。金沢で下宿のはばかりの掃除までしたことを思や、自分一人ぐらい何を
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お父さん、ここのお家、はばかりはどこなの。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丁度首り場のあたりだったというところの柳の木が、はばかりの小窓から見える古帳面屋ふるちょうめんやの友達のうちから帰って来て、あたしが話したつづきからだった。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「それにこの家のはばかりの位置が、私何だか気に喰いませんよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
祖母おばあさんがはばかりへゆきたくなったとお言いだから、けてもらいましょうというと、なに頼みなんぞおしなさんな、先方むこうから悪かったと開けにくるまでったらかしておおき
アンポンタンのうちの小さい女中は、裏の方にあるはばかりから出たとき、すぐそばをスーッと流れていったのでキャッと声をたてた。祖母は金玉かねだまだといった。金盥かなだらいなべでふせなければだめなのだといった。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)