半巾ハンケチ)” の例文
あきれた酒井は、ふつと、噴飯ふきだしかけたのを半巾ハンケチくわへて後ろ向きになつたが、込みあげてくる笑ひが止まらず
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
憲作はサックに入れた指環を一度あらためて、サックの上から新しい半巾ハンケチで包んでうやうやしく徳市に渡した。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
箒を堂の縁下えんしたに差置き、御手洗みたらしにて水をすくい、かみ掻撫かきなで、清き半巾ハンケチたもとにし、階段の下に、少時しばしぬかずき拝む。静寂。きりきりきり、はたり。何処どこともなく機織はたおりの音聞こゆ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日があたつて暑い時など、半巾ハンケチで顏を押へてゐる事もあつたが、その傘は矢張開かれなかつた。あんまり古びてしまつたので羞しくてさせないのかと想ふと、一層いとしかつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
僕等は何と云ふこともなしに黙つて歩いて行きました。するとそこへ通りかかつたのは髪の長い詩人のトツクです。トツクは僕等の顔を見ると、腹の袋から半巾ハンケチを出し、何度も額を拭ひました。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
太田がだまってまくらもとの洗面器を指さすと、彼は愕然がくぜんとした面持でじっとそれに見入っていたが、やがてあわててポケットから半巾ハンケチを出して口をおおい、無言のまま戸を閉じ急ぎ足に立ち去った。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
お宮は女持ちのさい、唐草からくさ刺繍ししゅうした半巾ハンケチを投げやった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
船の𢌞りに集つて來る小蒸汽船の上に姉と姉の夫と、吾々の家の知己某氏夫妻が乘つてゐて遠くから半巾ハンケチを振りながらやつて來た。約三年間音信不通になつてゐた梶原可吉氏も來てくれた。
半巾ハンケチをびりりと喰裂きて、「車夫に、支度したくを。直ぐ帰る。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
智恵子もハッと半巾ハンケチで口を蔽いながらあやまった。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「僕の財布の中の札が一枚消えてなくなつたのだが、誰か心當りは無いか。鼻紙だの半巾ハンケチと一緒に床の間に置いて、一寸風呂に入つてゐる間の出來事なんだ。たしかに五枚あつたのが四枚しか無い。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)