切角せっかく)” の例文
切角せっかくの甲賀氏の作がその洗練されていないユーモアのために安手に感じられるということは如何にも残念です。あえて苦言を呈します。
切角せっかく道純をっていた人に会ったのに、子孫のいるかいないかもわからず、墓所を問うたつきをも得ぬのを遺憾に思って、わたくしは暇乞いとまごいをしようとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もなくば切角せっかくの大国民も近き将来に於てことごとく大兄の如く胃病患者と相成る事とひそかに心痛まかりありそろ……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗い遠くの方から聞えて来るようで切角せっかく真暗い穴の中から這い出して来て、一生懸命で、その穴の縁に取りついて物音を聞いているが、ともすればそのすがっている力を失って
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
切角せっかくの大群の鰯はいまはその空いた沖の方へこぼれて行くばかりでした。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
切れたくアねえが、切角せっかくめえが身儘になるのを己らが為に身請をうんと云わねえじゃア、お部屋へ済まなかろうじゃねえか己らが、お前を身請するだけの力がありゃア、一も二もねえ、海上の鼻を
清二郎の出ようとするをとどめるは兼吉、胸のみしきりに騒がれて、昨夕ゆうべからんだ酒のにわかに頭にのぼる心地、切角せっかくこれまでり掛けながら、日頃の願の縁の糸が結ばれようか切れようか
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「でもわたくしは切角せっかく尋ねに来たものですから、そこへ往って見ましょう。」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
切角せっかくの不忍の池に向いた座敷の外は籠塀かごべいで囲んである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)