出刃庖丁でばぼうちょう)” の例文
死骸しがいのかたわらに出刃庖丁でばぼうちょうが捨ててあった。の所に片仮名かたかなのテの字の焼き印のある、これを調べると、出刃打ちのつかっていた道具だ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鍛冶屋は屠者が動物を殺すその刀なり出刃庖丁でばぼうちょうを拵えるというようなところから、鍛冶屋も罪ある者として最下族の中に入れてあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「魚銀の店先から出刃庖丁でばぼうちょうを盗みだして、隣りの伊勢正という酒屋の、岡部定吉という小僧、いや、小店員を刺したのです、小店員は重傷です」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きざなようですけれども、(ふところから、手拭いに包んだ出刃庖丁でばぼうちょうを出し、畳の上に置いて、薄笑いして)
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
母の愛すほかの兄妹を憎み、なぜ私のみ憎まれるのか、私はたしか八ツぐらいのとき、その怒りに逆上して、出刃庖丁でばぼうちょうをふりあげて兄(三つ違い)をまわしたことがあった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
店先へ中年の夫婦らしい男女の客が来て、出刃庖丁でばぼうちょうをあれかこれかと物色していた。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、振りかぶったのが、出刃庖丁でばぼうちょう——だが、駄目だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
みなこれ屈竟くっきょう大男おおおのこ、いずれも手拭てぬぐいにおもてつつみたるが五人ばかり、手に手にぎ澄ましたる出刃庖丁でばぼうちょうひさげて、白糸を追っ取り巻きぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
作次は左手で小石をよけながら右手をあげた。その手に出刃庖丁でばぼうちょうがあるのを見、投げるつもりだと直感した参太は、すばやく身をかがめながら走りだした。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……私がどういうわけで芝刈りばさみを買っているかがこの夫婦にわからないと同様に、この夫婦がどういう径路からどういう目的で出刃庖丁でばぼうちょうを買っているのか私には少しもわからなかった。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
亭主が浮気をしたら出刃庖丁でばぼうちょうでも振りまわすくらいの悋気りんきの強い女房ならば、私の生涯しょうがいも安全、この万屋の財産も万歳だろうと思います、という事だったので、あるじはひざを打ちを細くして喜び
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)