凄涼せいりょう)” の例文
蕪村はこれをたくみに用ゐ、これら不浄の物をして殺風景ならしめざるのみならず、幾多の荒寒こうかん凄涼せいりょうなる趣味を含ましむるを得たり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はすでに十一時に近づきぬ。かわら凄涼せいりょうとして一箇ひとり人影じんえいを見ず、天高く、露気ろきひややかに、月のみぞひとり澄めりける。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
詩に曰く風雨くらし、鶏鳴いてやまずと、もとこれ極めて凄涼せいりょうの物事なるを、一たび点破を経れば、すなわち佳境とると。
明日知れぬおそろしい世音せおんの暗い風が——そのままここ揚子江ようすこうに近い夜空いちめんな星の色にも不気味な凄涼せいりょうの感をすみのごとく流している今夜であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真逆まさか墓表ぼひょうとは見えずまた墓地でもないのを見るとなんでもこれは其処そこで情夫に殺された女か何かの供養に立てたのではあるまいかなど凄涼せいりょうな感に打たれて其処を去り
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)