こひねが)” の例文
勝利をこひねがふ人間の精神を現すといふ点に於て「力」は高尚なものである。吾々はもう権利と「力」とを対立させる事をめなければけない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
爾思しかおもへる後の彼は、ひそかにかの両個ふたりの先に疑ひし如き可忌いまはしき罪人ならで、潔く愛の為に奔る者たらんを、いのるばかりにこひねがへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僅かに眠る間にのみ辛じてこひねがひ得らるる一切の忘却——それだのに圭一郎の頭は疲れた神經の疾患から冴え切つて
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
右、長崎高等商業学校武藤教授の教示をかたじけなうした。なほ大方博学君子の教示をこひねがつて僕の文を補はうと思ふ。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
(Instinkt der Freiheit)彼が道徳に反抗し、法律を無視し、社会の制度を侮蔑せるは、一に唯かの自由の本能の発達をこひねがふが為のみ。
美的生活論とニイチエ (新字旧仮名) / 登張竹風(著)
むしろ彼女の為に、これをこひねがふの、至当なるを信ずるなり。(『女学雑誌』一八九二年一〇月一五日)
一青年異様の述懐 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
朕又別に金字もて金光明最勝王経をならひ写して塔毎に各一部を置か令む。こひねがふ所は聖法しやうはふの盛なること天地と共に永くつたはり、擁護の恩幽明ゆみやうかがふりて恒に満ちむことなり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
影ともはかなへだての関の遠き恋人として余所よそに朽さんより、近き他人の前に己を殺さんぞ、同く受くべき苦痛ならば、その忍び易きに就かんとこひねがへるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
火のやうな激しい怒りを圭一郎は勿論こひねがうたのだが、咲子は怒つたやうでもあるし、怒り方の足りない不安もあつた。彼の疑念は深まるばかりであつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
これまで、強情なる男といはれたる予が、彼女の前には、一処女の如く、化し去らるるなり。予が彼女の前にある時は、彼が予に、何事をか、命じくれまじやとこひねがふのみ。
一青年異様の述懐 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
あはれ一度ひとたびはこの紳士と組みて、世にめでたき宝石に咫尺しせきするの栄を得ばや、と彼等の心々こころごころこひねがはざるはまれなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)