八字髭はちじひげ)” の例文
おとがい細く、顔まろく、大きさ過ぎたる鼻の下に、いやしげなる八字髭はちじひげの上唇をおおわんばかり、濃く茂れるを貯えたるが、かおとの配合をあやまれり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気がつくと、私のすぐそばで、八字髭はちじひげをはやして、そのくせ妙ににやけた口をく、手品使いの男が、しきりとお花に勧めていた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金光会長は、顔の外までとびだしている白い八字髭はちじひげをゆりうごかして、東助とヒトミにそういった。この会長は、松永老人がにせ者だということにすこしも気がついてない様子。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
世間では鴎村と同じように、継子ままこ根性のねじくれた人物だと云っているが、どうもそうは見えない。少し赤み掛かった、たっぷりある八字髭はちじひげが、油気なしに上向うえむきじ上げてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その男はモーニングをまとって、金縁の分の厚い眼鏡をかけて、時勢おくれの奇妙に長い八字髭はちじひげを生やしていて、一番呑込のみこみが悪いらしく、幾度となく夫人に“No good”とどやしつけられ
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ことなるかたに心めたまふものかな。」といひて軽くわが肩をちし長き八字髭はちじひげ明色ブロンドなる少年士官は、おなじ大隊の本部につけられたる中尉ちゅういにて、男爵だんしゃくフォン・メエルハイムといふ人なり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)