光焔こうえん)” の例文
洛中の屋根も、東山連峰も、塔のさきも、なべて一面の雲の海であり、見たものは、巨大な光焔こうえんの車だけであった。
沼南が議政壇に最後の光焔こうえんを放ったのはシーメンス事件を弾劾だんがいした大演説であった。沼南の直截ちょくせつ痛烈な長広舌はこの種の弾劾演説に掛けては近代政治界の第一人者であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かがり、松明は道のかぎり、蜿蜒えんえん光焔こうえんつらねた。その火は町から村を縫い、湖畔の水に映じ、山蔭山裾にそい、陽も落ちて、夕闇せまる頃は、一大美観を現じていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜目なので定かでないが、長浜あたりとおぼしき地点をつらぬいて、ここのふもとに近い木之本まで、一条の光焔こうえんが河をなしているではないか。松明たいまつかがりの隙間なき流れだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっかな光焔こうえんと黒けむりのうちに、昨日からでは千をこえる敵味方のかばねが方々にすてられたままで、げたり踏みつけられたり、収容のひまもなく屍に屍をつみかさねていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに、国を愛するがために血をながした一族のわかれが、一帆万里をこえて、国外に武を振うとき、どうしてその生命の光焔こうえんに、護国のたましいが発しられないわけがあろう。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せつな、尼はまぶしげな睫毛まつげをした。覚一はまともに向いたままだった。けれど、彼がせいをうけた黒天黒地の無明むみょうの世界にも、トロトロとして巨大な一輪の光焔こうえんだけはえていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)