偸視ぬすみみ)” の例文
上眼使いに二人の方を偸視ぬすみみると、二人の大の男はいずれもワナワナと身を顫わせ、額には冷汗さえかいて、今にも消え入らんばかりの風情である。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は横眼でそれをにらみながら、妻の額を偸視ぬすみみた。このコップを彼処へ、額の上へたたきつけてやつたなら。いや、いけない、もともと自分が我儘なのだ。
いたくもこの弁論に感じたる彼の妻は、しばしば直道の顔を偸視ぬすみみて、あはれ彼が理窟りくつもこれが為にくじけて、気遣きづかひたりし口論も無くて止みぬべきを想ひてひそかよろこべり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
とき/″\たんばの方を偸視ぬすみみして行程を遅れまいとするように見えるのは、二人が道の左側と右側とに職場を分けて拾って行くのでした。見ていないと権益を犯し易い。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
渠は電光の如く主筆の顏を偸視ぬすみみたが、大きな氷の塊にドシリと頭を撃たれた心地。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
西洋蘆キャンヌの繁みの奥の方をキョトキョトと偸視ぬすみみしながら、コン吉がいうと、タヌは一向意に介しないふうで
ちらちら偸視ぬすみみして胸を躍らしている壁の一場面の前の人の動きにも決して注意を怠らなかった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
矢張り默つた儘で、一せん偸視ぬすみみを自分に注いで、煙を鼻からフウと出す。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は宮の顔を偸視ぬすみみつ。宮は物言はん気色けしきもなくて又母の答へぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
真名古は時々薄眼をあけて加十の顔を偸視ぬすみみる。口の角に泡をためて無闇と饒舌りまくっている愚直なようすを見ると、この男が嘘をいっているのではないことがすぐわかる。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
赤髭あかひげひねり拈りて、直行は女の気色けしき偸視ぬすみみつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
上眼使いでオドオドと真名古の顔を偸視ぬすみみするようになった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)