値遇ちぐう)” の例文
たまにそういう人で犬死にならないのは、値遇ちぐうを得た君臣の間に黙契があって、お許しはなくてもお許しがあったのと変らぬのである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その年の秋、悟浄ごじょうは、はたして、大唐だいとう玄奘法師げんじょうほうし値遇ちぐうし奉り、その力で、水から出て人間となりかわることができた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
くだんのアントニウス尊者は紀州の徳本とくほん上人同様、不文の農家の出身で苦行専念でやり当てた異常の人物だ。その値遇ちぐうの縁で出家専修した者極めて多ければ、当時エジプトの人数が僧俗等しといわれた。
おれが自分の材幹さいかん値遇ちぐうとによつて、吏胥りしよとしてげられるだけの事を成し遂げた上で、身を引いた天保てんぱう元年は泰平であつた。民の休戚きうせき米作べいさく豊凶ほうきようかゝつてゐる国では、豊年は泰平である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし抽象的にかう云ふ事を考へてゐるうちは、冷かな義務の感じのみであるが、一人一人具体的に自分の値遇ちぐうあとを尋ねて見ると、矢張身近い親戚のやうに、自分に Neigungナイグング からの苦痛
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)