倉皇さうくわう)” の例文
われは客舍に返りて、不可思議なる力に役せらるゝものゝ如く、倉皇さうくわう我行李を整へ、あるじに明朝の發軔はつじんを告げたり。
すると須世理姫と葦原醜男とが、まるでねぐらを荒らされた、二羽のむつまじい小鳥のやうに、倉皇さうくわう菅畳すがだたみから身を起した。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「オ、——長二ぢやないか」倉皇さうくわうとして起ちきたる音して、ゆがみたる戸は、ガタピシと開きぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
敵将マカロフ提督これを迎撃せむとし、倉皇さうくわうれいを下して其旗艦ペトロパフロスクを港外に進めしが、武運やつたなかりけむ、我が沈設水雷に触れて、巨艦一爆、提督もまた艦と運命を共にしぬ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
月照船頭に立ち、和歌を朗吟して南洲に示す、南洲首肯しゆかうする所あるものゝ如し、遂に相ようして海にとうず。次郎等水聲起るを聞いて、倉皇さうくわうとして之を救ふ。月照既に死して、南洲はよみがへることを得たり。
しづを、再び屋内をくないに入り、倉皇さうくわう比呂志をいだいて出づ。父また庭をめぐつて出づ。このかん家大いに動き、歩行甚だ自由ならず。屋瓦をくぐわ乱墜らんつゐするもの十余。大震漸く静まれば、風あり、おもてを吹いて過ぐ。
瞥視は倉皇さうくわう、椅子を蹴つて起てり「解散——弁士——中止」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)