修羅場しゅらじょう)” の例文
しかしわが生れたる東京の市街は既に詩をよろこぶ遊民の散歩場さんぽじょうではなくて行く処としてこれ戦乱後新興の時代の修羅場しゅらじょうたらざるはない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ジャン・クリストフ」十巻を書いた時、作者ロマン・ローランの眼には、最近の欧州大戦役の修羅場しゅらじょうが映じていたかどうかを、私は知らない。
船の甲板デッキは、むろん一瞬間に修羅場しゅらじょうと化していた。今の今まで、抱き合ったり、吸付き合ったりしていた男や女が、先を争って舷側に馳け付けた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おおらかな感銘のただよっているのもつかで、やがて四辺は修羅場しゅらじょうと化す。烈しい火焔かえんの下をくぐり抜け、叫び、彼は向側へつき抜けて行く。向側へ。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
所詮しょせん生命いのちさえもあぶないという恐ろしい修羅場しゅらじょうになっておりますから「これでは、どうも仕方がない。生命あっての物種ものだねだ。何もかもほうり出してしまえ」
匍匐ほふくし、生殖し、吼哮する海獣の、修羅場しゅらじょうの、歓楽境の、本能次第の、無智の、また自然法爾じねんほうにの大群集である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
黄海! 昨夜月を浮かべて白く、今日もさりげなく雲をひたし、島影を載せ、睡鴎すいおうの夢を浮かべて、悠々ゆうゆうとしてよりも静かなりし黄海は、今修羅場しゅらじょうとなりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼方此方あっちこっち修羅場しゅらじょうに起っていた刃音や呻きや矢弦やづるのひびきも、次第に減って来た。そして今はただ口々に
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
社会は修羅場しゅらじょうである。文明の社会は血を見ぬ修羅場である。四十年ぜんの志士は生死のあいだ出入しゅつにゅうして維新の大業を成就した。諸君のおかすべき危険は彼らの危険より恐ろしいかも知れぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこはすでに一場の大戯曲だいぎきょくのあとのような静けさに返ったが、人馬は、夕立ち雲のように、次々の新たな地上を修羅場しゅらじょうにして、岩作やざご方面へ、一瞬に移動していた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾千の成牡(ブル)入り乱れてまさに修羅場しゅらじょうの壮観となる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)