信天翁あほうどり)” の例文
絶壁には千年のこけがむして、荒波のしぶきが花と散っている。そして信天翁あほうどりの群が、しゃがれ声で鳴きながら、その上を飛んでいる。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
翼の強い海鳥も赤道の熱さには敵わないと見えて信天翁あほうどり一羽見えないのである。空に浮いているのは絹糸のような半透明の雲ばかりだ。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、全島には、椿つばきの花が一面に咲く。信天翁あほうどりが、一日一日多くなって、硫黄ヶ岳の中腹などには、雪が降ったように、集っている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とり巻いて大海の風が吹く。人々は客室のベッドに臥して静かなることは夜にも似て、おおしく飛ぶのはただ信天翁あほうどりだけである。
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
見渡す限りの青海原あおうなばらで、他の船の帆の影さえ一つも見えない。見えるものは、空と、雲と、水と、それから空を飛ぶ信天翁あほうどりと、かもめだけのものです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「中央気象台の天気予報は決して信用出来ぬが、寒暖計の度数ぐらいは信用してもよいだろう」と、信天翁あほうどりの生殖器を研究して居る貧乏な某大学教授が皮肉を言ったという事である。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
空には信天翁あほうどり、海にはさめの大群が、溺れた戦死者の肉をねらって、あとからあとからとあつまってくる。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
信天翁あほうどりか——とびか、鷹か、みさごか、かもめか、なんだか知らないが、ばかに大きな、真白な鳥だ。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海に接している砂浜は金色こんじきに輝き、飛び交うている信天翁あほうどりの翼から銀の光を発するかと疑われ、いつもは見ることを厭っていた硫黄ヶ岳に立つ煙さえ、今朝は澄み渡った朝空に
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こけむす絶壁の上には、信天翁あほうどりの群が飛びかっている。北の水門には、ものすごい海流が渦巻いている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
が、群青色ぐんじょういろにはろばろと続いている太平洋の上には、信天翁あほうどりの一群が、飛びうているほかは、何物も見えない。成経や康頼を乗せた船が、今まで視野の中に止っているはずはなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
孤島とを棲処すみかとして、群棲ぐんせいを常とする信天翁あほうどりが今時分ひとりで、こんなところをうろついているというのも変ですから、或いはオホツク海あたりから来た大鷲おおわしが、浦賀海峡を股にかけて
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤の御飯をく、手づくりの諸味もろみの口を切る、海でとった生きのいい魚、陸で集めた自然の野菜、バナナ、パイナップル、それから信天翁あほうどりを料理したさかな、そういったような山海の珍味を用意して
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)