他聞たぶん)” の例文
「君を書斎へ呼び込んだのも他聞たぶんはばかるからだ。橋本君の方は君が令嬢の病癖に恐れを為して逃げ出したということに取り繕って置く」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かれらの手にかかることは、みな、秘密であり他聞たぶんをはばかるので、相談や打ち合せには、必ず、宗家の穴蔵あなぐら部屋に寄るものにきまっていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うばひ取られし事他聞たぶんも宜しからず當家の恥辱ちじよくなりとて改易かいえき申付られ尤も憐愍れんみんを以て家財は家内へ與へられたれば通仙が後家ごけお竹并びに娘お高はやしき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかもそれをおさえつけようとする努力のあとがありありと聞こえた。他聞たぶんはばかるとしか受取れないその談話が、お延の神経を針のように鋭どくした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安「はい、慶治けいじ御内談があって他聞たぶんはゞかると仰しゃる事だから、彼方あちらへ行っておれ、えー用があれば呼ぶから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それには他聞たぶんをはばかる様な種類の文言もんごんが記してあったとも考えられません。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこらのむしろには、弓師、皮縫工かわぬい飾師かざりしなどが手入れ仕事に他念もない。で、他聞たぶんを避けるお心だろう。爺の左近はそう察しながらいて行った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)