二荒ふたら)” の例文
あくる晩は宇都宮に着いたが、その翌日もひるすぎまでここに逗留して、伝兵衛は澹山を案内して二荒ふたら神社などに参詣した。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神明とあるのを広く解して諸の神祗とするもよし、又狭い意味で之を地主神である二荒ふたら山神と解しても差支ないであろう。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
下野の二荒ふたらなどでは、祭の日にわざわざ御狩と称して、猪鹿を狩ってそれを生贄に祭ったという事もないではなかった。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
上野かんづけの国五八迦葉山かせうざん下野しもづけの国五九二荒ふたら山、山城の六〇醍醐だいごみね、河内の六一杵長しなが山、就中なかんづく此の山にすむ事、大師の六二詩偈しげありて世の人よくしれり。
園ノ西南がいツテコレヲ径ス。眺観豁如かつじょタリ。筑波つくば二荒ふたらノ諸峰コレヲ襟帯きんたいルベシ。厓下ニ池アリ。さかしまニ雲天ヲひたシ、芰荷菰葦叢然きかこいそうぜんトシテコレニ植ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを西北に廻れば、当然、那須、塩原、二荒ふたらの山々でなければならぬ。そうして、やがて上州の山河……
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古い二荒ふたら神社の記録に、くわしくその合戦のあり様が書いてありますが、赤城山はむかでの形を現して雲に乗って攻めて来ると、日光の神は大蛇になって出でてたたかったということであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山深きあかつきのながめ、しんしんとして物一つ動かぬ静かさははだにしみわたりて単衣ひとえに寒さを覚えたり。日、湖の面を照す頃舟を雇うて出ず。二荒ふたらの裾山樹々の梢に鶯の今をさかりと鳴く声いとめずらし。
滝見の旅 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
二荒ふたらの宮には春の桜、塩原の温泉いでゆには秋のもみじ、四季とりどりの眺めにも事欠かず、よろずに御不自由はござりませぬ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わずかに五指を屈すれば足りると言われている程で、足柄山のアサガラ転訛説さえ未だ容易に首肯し難いものがあるのに、二荒ふたら山までも馬来語で説明しようとしたことは、調子に乗って深入りし過ぎた
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ぬさ給ふ二荒ふたらの山のほととぎす初音や神のかしこまりなる
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)