丑満時うしみつどき)” の例文
旧字:丑滿時
考えてみれば丑満時うしみつどきである。帝もご熟睡のさなかであろう。そのため、さっきの妃も、御夢をおどろかしかねていることでもあろうか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはある晩のことであったが、時刻もちょうど丑満時うしみつどき、甚五衛門は小姓を連れて奥のかわやへ行こうとして廊下を向こうへ歩いて行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも、そのくぎの新しさ! そのわら人形の新しさ! ——だれが見ても、ゆうべの丑満時うしみつどきにのろい打ったものとしか思えないのです。
または所謂いわゆる、草木も眠る丑満時うしみつどきに聞き分けのない患者から呼び付けられる事が何度も何度もある事を、当初から覚悟していた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここ山塞も、丑満時うしみつどきを越えた真夜中である。では、誰であろうか。黄竜こうりゅうの奥の間で、ひっそりと物音をさせているのは?
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トロトロしていたので、たしかな時間はわかりませんが、おそらくは草木も眠るといわれる、丑満時うしみつどきだったでしょう。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
此の部屋には、王さまと、ポローニヤスと二人きり、ほかには誰も居りません。時刻も、もはや丑満時うしみつどきです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
さっ照射入さしいる月影に、お藤の顔はあおうなり、人形の形は朦朧もうろうと、煙のごとくほの見えつ。霊山にく寺の鐘、丑満時うしみつどきして、天地寂然しんとして、室内陰々たり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やはり丑満時うしみつどきで世間が一番静かな証拠なのだ。だがこの遠く深い谷の奥でも、夜陰の静けさが昼間をしのぐものがあるのだろうか。ふと、身震いを誘う鬼気が感じられる。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
夜中の丑満時うしみつどきになりゃ、十本あっても足りねえほど十手が入り用になるんだから、寝るのがいやなら、そこにそうして、十手を斜に構えて、ゴーンと丑満が鳴るまで意気張っていな
◯例の丑満時うしみつどき、敵大編隊来襲す。はじめ大部分は関東北部へ行ったのであるが、帰りに帝都を北から南へ抜け、低い雨雲の下に眠っている帝都を爆撃した。多くは爆弾。それに時限弾も混入。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ばけもののする事だと思って下さい。丑満時うしみつどきで、刻限が刻限だから。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)