上調子うわちょうし)” の例文
矢張やっぱり固くなりながら、訥弁とつべんでポツリポツリと両親の言伝ことづてを述べると、奥様は聴いているのか、いないのか、上調子うわちょうしではあはあと受けながら
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
上調子うわちょうしに云って、よけいに笑いながら、その洗い髪の白い顔が、暖簾のれんすそから、無遠慮に、庄次郎の方をのぞいたりした。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当国の風俗は万事に差掛さしかかりたる事なく、人の音声も下音に上調子うわちょうしなることなし。人に応ずるにも一思案して答える風なり。互に人だのみにして遠慮過ぎたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
青侍は、年相応な上調子うわちょうしなもの言いをして、下唇をめながら、きょろきょろ、仕事場の中を見廻した。——竹藪たけやぶうしろにして建てた、藁葺わらぶきのあばらだから、中は鼻がつかえるほど狭い。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとも平生へいぜいは忙がしさに追われて、別段気にも掛からないが、七日なのか一返いっぺんの休日が来て、心がゆったりと落ちつける機会に出逢であうと、不断の生活が急にそわそわした上調子うわちょうしに見えて来る。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)