上流かわかみ)” の例文
酒ぬきの飯をった私は、其処を出て河津川べりに往き、其処の橋を渡って上流かわかみへ往って、田の中の森にある来宮神社くのみやじんじゃへ往ってみた。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みんの末の話である。中州ちゅうしゅう焦鼎しょうていという書生があって、友達といっしょにべん上流かわかみへ往ったが、そのうちに清明せいめいの季節となった。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、絹川の土手にとりついたころには、きれい樺色かばいろに燃えていた西の空がくすぶったようになって、上流かわかみの方はうっすらした霧がかかりどこかで馬のいななく声がしていた。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平兵衛の舟がその右側を漕いでいた。平兵衛は舟のどう衝立つったって上流かわかみの水のいきおいを見ていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上流かわかみの毒汁が幾分いくぶんでも流れ込んでいるので、もう五つ六つの鱣が腹をかえして片泳かたおよぎをしていた。そこにもまた皮粕を入れた。山女や岩魚いわながまた七八尾半死はんしになって浮いて来た。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が明けて来た。それとともに風も止んで来たが水は増すばかりであった。平兵衛の乗った舟と平三郎の乗った舟は、つつみに添うて上流かわかみの方へ漕いでいた。平三郎は舳へ腰を掛けていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私は悪徒わるものの手から逃げて、此の上流かわかみの山の裾から来た者でございます」
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)