一顆ひとつ)” の例文
その一顆ひとつは渋かりき。他の一顆をあじわわむとせしに、真紅の色の黒ずみたる、うてななきは、虫のつけるなり。熟せしものにはあらず、毒なればとて、亡き母棄てさせたまいぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦桃にがもも一顆ひとつ浮波々々ふわふわ浮来うききたりぬ
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
口惜くちおしや、われら、上根じょうこんならば、この、これなる烏瓜一顆ひとつ、ここに一目、令嬢おあねえさまを見ただけにて、秘事のさとりも開けましょうに、無念やな、おいまなこの涙に曇るばかりにて、心の霧が晴れませぬ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色がいいから紅茸べにたけなどと、二房一組——色糸の手鞠てまりさえ随分糸の乱れたのに、就中なかんずく蒼然そうぜんと古色を帯びて、しかも精巧目を驚かすのがあって、——中に、可愛い娘のてのひらほどの甜瓜まくわが、一顆ひとつ
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲の形が葉をひろげて、うすく、すいすいと飛ぶ蛍は、瓜の筋に銀象嵌ぎんぞうがんをするのです。この瓜に、朝顔の白い花がぱっと咲いた……結綿ゆいわたを重そうに、娘も膝にたもとを折って、その上へ一顆ひとつのせました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)