一笑いっしょう)” の例文
するとその女が、——どうしたと思う? 僕の顔をちらりと見るなり、正に嫣然えんぜん一笑いっしょうしたんだ。おやと思ったがに合わない。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、さきには家康へ、身ぐるみたのみきっていたように、今では、一にも秀吉、二にも秀吉と、かれのいちびん一笑いっしょうをただおそるるのみだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久助君は、そんなことをくちに出していえば、ひとが一笑いっしょうにふしてしまうことは知っていたので、ただじぶんひとりで空想にふけるだけであった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
自分の手柄を吹聴ふいちょうし、褒美ほうび一笑いっしょうにありつこうとしたところで、さあ、それが何になる? おまけに、うっかりすると、ひどい目にあうかも知れない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
天下の民みな覇政はせいたくに沈酔し、一旅を以て天下を争わんとしたる幾多いくたの猛将梟漢きょうかんの子孫が、柳営りゅうえい一顰いっぴん一笑いっしょう殺活さっかつせられつつある際に、彼の烱眼けいがんは、早くも隣国の形勢に注げり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かれは再び横になりて謹聴きんちょうせり。学生は一笑いっしょうしてのちくだんはなしを続けたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、一笑いっしょうした。
一笑いっしょうとむら
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
秀吉は、何を聞いても、一笑いっしょうに附していた。そして官兵衛、半兵衛の両参謀のすすめに従って、三月初旬、その本陣を、加古川から書写山しょしゃざんのうえに移した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし現在の彼自身の位置は容易に一笑いっしょうに付することは出来ない。彼は弔辞には成功し、小説には見事に失敗した。これは彼自身の身になって見れば、心細い気のすることは事実である。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)