一盃いつぱい)” の例文
「はあ、私もお相手を致しますから、一盃いつぱい召上りましよ。氷を取りに遣りまして——夏蜜柑なつみかんでもきませう——林檎りんごも御座いますよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『今日はどうかしてゐる。この男は東三省と日本が攻守同盟でも結んだつもりなのだ。一盃いつぱいやつてふだんの通りになつてはどうだね、陶』
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
一盃いつぱいやると、きつと其時代のことを思出すのが我輩の癖で——だつて君、年を取れば、思出すより外に歓楽たのしみが無いのだもの。あゝ、せんの家内はかへつて好い時に死んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なんことアねへ態々わざ/\心配しんぱいしてたさにようなもんで一盃いつぱい一盃いつぱいかさなれば心配しんぱいかさなつて
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
川地は黙つてスイと起ちつ「吾妻、居室ゐまへ来給へ、一盃いつぱい飲まう——骨折賃も遣らうサ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「君はいつも妙な事を言ふ人ぢやね。アルフレッド大王とは奇想天外だ。僕の親友を古英雄に擬してくれた御礼に一盃いつぱいを献じやう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『あゝ、其内に僕も出掛ける。さあなんにもないが一盃いつぱい飲んで呉れ給へ。』と言つて、銀之助は振返つて見て、『お志保さん、みませんが、一つ御酌おしやくして下さいませんか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
少時しばし手にせるままにながめゐれば、よし今は憂くも苦くも、ひさしく住慣れしこの世を去りて、永く返らざらんとする身には、わづか一盃いつぱいの酒に対するも、又哀別離苦あいべつりくの感無き能はざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)