一拶いっさつ)” の例文
場合が場合だから、そんな深遠な人生問題、むしろ哲学的な命題について一拶いっさつをくらおうとは、夢にも思わなかったのである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
最上の戦には一語をも交うる事を許さぬ。拈華ねんげ一拶いっさつは、ここを去る八千里ならざるも、ついに不言にしてまた不語である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔は一国の帝王が法王の寛恕かんじょを請うために、乞食の如くその膝下ひざもとに伏拝した。又或る仏僧は皇帝の愚昧なる一言を聞くと、一拶いっさつを残したまま飄然ひょうぜんとして竹林に去ってしまった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
場合が場合だから、そんな深遠な人生問題、むしろ哲学的な命題について一拶いっさつをくらおうとは、夢にも思わなかったのである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手と目より偉大なる自然の制裁を親切に感受して、石火の一拶いっさつに本来の面目に逢着ほうちゃくせしむるの微意にほかならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿呍あうんの間を一拶いっさつの気合、まさしく奥義の御伝授と拝察つかまつりました、御流儀の秘伝まさに会得いたしてござります、かたじけのう……」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
婆さんはまた驚いて出て来る。そうしてまた例のごとくヒヤ、サーとたしなめて帰って行くと、先生は婆さんの一拶いっさつにはまるで頓着とんじゃくなく、ひもじそうに本を開けて、うんここにある。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
追い懸けて来る過去をがるるは雲紫くもむらさきに立ちのぼ袖香炉そでこうろけぶる影に、縹緲ひょうびょうの楽しみをこれぞと見極みきわむるひまもなく、むさぼると云う名さえつけがたき、眼と眼のひたと行き逢いたる一拶いっさつ
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)