一思ひとおもい)” の例文
一思ひとおもいに死だと思わせて置きたいな。そうでもない偶然ひょっとおれが三日も四日も藻掻もがいていたと知れたら……
まずこれならばおおかみ餌食えじきになってもそれは一思ひとおもいに死なれるからと、路はちょうどだらだらおりなり、小僧さん、調子はずれに竹の杖を肩にかついで、すたこらげたわ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気が狂いそうだ! 命もられそうだ! いっそ一思ひとおもいに死んでのけたら、この苦しいのがなくなるだろうと思って、毎日ここへ来ては飛込もうかと思うけれど、さて死のうとすると
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
とても死ぬるものなら、一思ひとおもいに死んでしまいたいと云う情に、九人が皆支配せられている。留められてもどかしいと感ずると共に、その留めた人にっ附かって何か言いたい。理由を問うて見たい。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まだ四、五年たたなくっちゃ芸者に売る事もできないのさ。以前世話をした奴らに頼んだら、どうにかしてくれない事もなかろうが、それほどはじさらして歩く位なら一思ひとおもいに死んだ方がまだしもだよ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さア、死ぬか——待ってみるか? 何を? 助かるのを? 死ぬのを? 敵が来てを負ったおれの足の皮剥かわはぎに懸るを待ってみるのか? それよりもいっそ我手で一思ひとおもいに……
それがただのじとじとならいけれど、今云う泥水の一件だ、ごうと来た洪水か何かで、一思ひとおもいに流されるならまだしもです——あかりの消えた、あの診察じょのような真暗まっくらな夜、降るともつかず
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は石になるだらうと思つて、一思ひとおもいすくんだのである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)