一寸ちつと)” の例文
寂光院の若い尼を主人公にして、其若い尼と四條で見た舞子とを姉妹にして趣向を立てたのだが筆が澁つて一寸ちつとも運ばぬ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
平生しよつちゆう参りたいツて言ふんで御座いますよ、けれども御存知ごぞんじ下ださいます通り家の内外うちそと、忙しいもンですから、思ふばかりで一寸ちつとも出られないので御座いますから、嬢等むすめどもにもネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
草色くさいろ薔薇ばらの花、海の色の薔薇ばらの花、ああうみのあやしい妖女シレエヌほぞ草色くさいろ薔薇ばらの花、波に漂ふ不思議な珠玉しゆぎよく、指が一寸ちつとさはると、おまへは唯の水になつてしまふ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「でも姉さんは一寸ちつと御変おかはりなさいませんがネ、私ツたら、カラ最早もう仕様しやうが無いんですよ、芳子などに始終しよつちゆう笑はれますの——何時の間にう年取つたかと、ほんとに驚いて仕舞ひますの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お花はランプの光まぶかほ背向そむけつ「けれど、其のお嬢様など、お幸福しあはせですわねエ、其様さうした立派な方なら、仮令たとひ浮き名が立たうが、一寸ちつとも男の耻辱はぢにもなりや仕ませんもの——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)