一切合財いっさいがっさい)” の例文
そうした一切合財いっさいがっさいがあわさって、彼女のうちに、一種こう人を小馬鹿にしたような無頓着むとんじゃくさや投げやりな態度を、養ったのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
彼の為す一切合財いっさいがっさいのものが全て天下一でなければ納らない狂的な意欲の表れがあるのみ。ためらいの跡がなく、一歩でも、控えてみたという形跡がない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
切って死に、一切合財いっさいがっさい、結末がついてしまいました。……これじゃ、いかなあなたでも、どうしようもない……
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それらの人を一切合財いっさいがっさい相手にして、ごみだらけのアイスクリームや、冷し飴や、西瓜すいかなどを売っている縁日商人は、売れ残りの品をはやくさばいてしまおうと思って
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
だがいったいなんのために、事新しくこんなことを、いい出したかといいますと、一切合財いっさいがっさい今日においては、もうもうそういう過去のことは、私の心から稀薄になった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それよりももっと大きな眼をみはらせられて、もっと深く感歎させられたのは、その服の仕立のいい事と、その持ち物の一切合財いっさいがっさいが、はさみ剃刀かみそりあとの鮮かな頭髪に到るまで
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
片手には重い番傘ばんがさをさしているのであるから、新聞を渡すのにも釣銭を出すのにも一切合財いっさいがっさい片手でしなければならぬので、新聞を地に落して泥だらけにしたり、まごついたりして
しきりにこの二人が布袋の川渡り、布袋の川渡りということを口にしているのは、自分たちが菰をかぶっている頭の上に、身上道具の一切合財いっさいがっさいをいただいているからであろうとは思われる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この証文書かされた時は綿貫にあんじょうめられて、脅迫しられたのんやいうこと、自分がだまされてたことから夫欺してたことまで、なんでも二時間ぐらいかかって一切合財いっさいがっさい話してやりましたら
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕の目には世の中が一切合財いっさいがっさい、一文の値打ちもなくなってしまうんだ。うんとむずかしい手術にも平気で手をつけて、ものの見事にやってのける。どえらい未来の計画を、でっち上げてみたりもする。
俺はおおよそ探り知ったと! そうして俺とは一切合財いっさいがっさい、あべこべであり逆であると!
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして精巧な策略を仕遂しとげた詐欺師のような落付いた満足を覚えたが、ふと自分に返ると、苦りきった気持で、頭の中の映像を大急ぎで一切合財いっさいがっさい掃除するようにした。彼は急に自分が嫌になった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もう一歩というところで、いつもひと足さきに出しぬいてしまう。それに、やりかたが憎い。自分の手柄を一切合財いっさいがっさい、叔父の庄兵衛になすりつけ、どこを風が吹くといったようにすっとぼけている。
そんなことあったらただでは置かん、今までの関係一切合財いっさいがっさい新聞い抜いてやるいうて脅迫しますし、それでのうても競争の形になってる市会議員の家の方で手エ廻して、光子さんのアラ捜しして
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「わからねえ、わからねえ、お前の言うことは一切合財いっさいがっさい、ちんぷんかんぷんで、早口で、聞き間に合わねえが、つまり、舟の行先が間違ったというんだろう、なあに、間違やしねえよ、爪先の向いた方へ真直ぐに漕いで来たんだ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)