うごか)” の例文
狭い堀割へと渦巻くように差込んで来る上汐あげしおの流れに乗じて、或時は道の砂をも吹上げはせぬかと思うほどつよく欄干の簾をうごかし始める。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
またこの論文の中に「球に正電気を与えて一定の方向にうごかすと、丁度その方向に電流が流れているのと同じ作用を生ずるだろう」
貞白はすぐに抽斎をうて五百のねがいを告げ、自分もことばを添えて抽斎を説きうごかした。五百の婚嫁はかくの如くにして成就したのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、愈々順番が来ると、自分も久米も夢中になつて舞台の上に飛び出した、丸切り切羽つまつた心持で、機械的に身をうごかして居る丈であつた。
学生時代の久米正雄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けもの雪をさけて他国へ去るもありさらざるもあり、うごかずして雪中に穴居けつきよするはくまのみ也。熊胆くまのいは越後を上ひんとす、雪中の熊胆はことさらにあたひたつとし。
昔は他の男を見て心をうごかすものは既に姦淫かんいんしたのと同じだという考え方もあったが、自分は一概にそうは思わない。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その曲は偶〻たま/\アヌンチヤタがヂドに扮して唱ひしものと同じけれども、その力を用ゐる多少と人をうごかす深淺とは、もとより日を同うして語るべきならず。
「なんだ、査公おまわりさんでねえだ」と、一人の若者、獅子鼻ししっぱなうごかしつつ忌々いまいまし気にいうと、中に交った頬被りの三十前後の女房、きいろい歯を現わしてゲラゲラと笑い
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「それには僕はこういうことを考えてる」と原は濃い眉をうごかして、「一つ図書館をやって見たいと思ってる」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母は驚き、途方にれたる折しも、かどくるまとどまりて、格子のベルの鳴るは夫の帰来かへりか、次手ついで悪しと胸をとどろかして、直道の肩を揺りうごかしつつ、声を潜めて口早に
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
詩なりと言わばもとより昧者まいしゃの言のみ、趣味的に他が感覚をうごかすべき人格と態度とを有するものあらば、その態度すなわち詩、人格すなわち詩と称すべきなり
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
顔もうごかさなけりゃ、見向きもしないで、(遣ってみるです。)というッきりで、取附とりつく島も何にもないと。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはあまりに自然の前に立ち、その命令にのみよって一筆をうごかす事の習慣から、見ているものだけは描き得るが、実物を離れては画家は何一つとして描き得ない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
正統帝せいとうてい御父おんちち宣宗せんそう皇帝は漢王高煦こうこうの反に会いたまいて、さいわいに之を降したまいたれども、叔父しゅくふために兵をうごかすに至りたるの境遇は、まことに建文帝に異なること無し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せい閑所かんしょに転ずる気紛きまぐれの働ではない。打ち守る光が次第に強くなって、眼を抜けた魂がじりじりと一直線に甲野さんにせまって来る。甲野さんはおやと、首をうごかした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それによると、衣通媛の兄媛なる允恭いんぎょうの妃の、水盤の冷さをえて、夫王をうごかして天位にかしめたという伝えも、水の女としての意義を示しているとするのだ。名案であると思う。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
貴方あなたもいよいよふか考慮かんがえるようにったならば、我々われわれこころうごかところの、すべての身外しんがい些細ささいなることはにもならぬとおわかりになるときがありましょう、ひと解悟かいごむかわなければなりません。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
このはなは婬婦いんぷなりしが娘おくま容顏きりやう衆人しうじんすぐれて美麗うつくしく見るものこゝろうごかさぬものなく二八の春秋はるあきすぎて年頃に及びければ引手ひくて數多あまたの身なれども我下紐わがしたひもゆるさじと清少納言せいせうなごんをしへも今は伊達だてなる母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、想像さうざう矢張やはりわるはうへばかりはしらうとする。如何どうかすると、恋人こひゞとつたことを、すでうごかすべからざる事実じゞつめてしまつてゐる。さうして、其事実そのじゞつのうへに、色々いろ/\不幸ふかう事実じゞつをさへきづきあげてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
真黒くわれうごかざりあしたより桜花はな窓辺まどべに散りに散れども
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
稲荷坂見あぐるあけの大鳥居ゆりうごかして人のぼり来る
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
宮子は彼の身体を激しく揺りうごかした。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
保はの小結社の故を以て、刺客が手をうごかしたものとは信ぜなかった。しかししばらくは人のすすめに従って巡査の護衛を受けていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こゝに於てわれみづから名づくるに来青花らいせいかの三字を以てしたり。五月薫風簾をうごかし、門外しきりに苗売の声も長閑のどかによび行くあり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
淫慾いんよく財慾ざいよくよくはいづれも身をほろぼすの香餌うまきゑさ也。至善よき人は路に千金をいへ美人びじんたいすれどもこゝろみだりうごかざるは、とゞまることをりてさだまる事あるゆゑ也。
老若いづれはあれど、皆嘗て能く人の心をうごかしゝ人の、今は他の心文牌キヨオルに目を注ぐやうになりしなるべし。
榮子は御飯が熱いからいやつめたいからいけないと三度程も替へさせてやつと食べにかゝつて居るのである。それは母を見ぬやうに目をふたいで口をうごかして居るのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
得三一度ひとたび手をうごかさば、万事ここに休せむかな。下枝の命の終らむには、この物語もみぬべし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三十四年の春になっては寝返りも出来なく顔を自分で拭くことも出来なかった、体を少しでもうごかすたびにウンイウンイとめきの声を漏らされた、この時分にどんな風にして歌を選ばれたか
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
黄金こがね織作おりなせるうすものにも似たるうるはしき日影をかうむりて、万斛ばんこくの珠を鳴す谷間の清韻を楽みつつ、欄頭らんとうの山を枕に恍惚こうこつとして消ゆらんやうに覚えたりし貫一は、急遽あわただし跫音あしおとの廊下をうごかきたるにおどろかされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うぢやいです。貴方あなた愈〻いよ/\ふか考慮かんがへるやうにつたならば、我々われ/\こゝろうごかところの、すべての身外しんぐわい些細さゝいなることにもならぬとおわかりになるときりませう、ひと解悟かいごむかはなければなりません。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ふるふ共此越前守が眼力がんりきにて見拔みぬきたるに相違なし無益の舌のうごかさずともサア眞直まつすぐに白状せよと申さるゝに平左衞門コハなさけなき事を伺ひ候もの哉私し儀聊かも言葉ことばかざらず主人の惡事あくじを身に引請ひきうけん事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其れは戀と名付くべきものでは無いと云ふやうな斷定が、何時となく原因いはれなく、私の若い十六歳の胸の中にうごかしがたく形造かたちづくられて居たのである。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
抽斎は中丸のことうごかされて、美貌の子優善を鉄に与えた。五百いおは情として忍びがたくはあったが、事が夫の義気にでているので、強いて争うことも出来なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
皆が皆結婚によって幸福の得られない現代に、「女は結婚すべきものだ」というような役に立たない旧式な概論にうごかされる事なく、結婚もしよう、しかしそれが不可能なら
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
然はれそは一瞬の間にして、身の在るところを顧み、四邊なる男等のしかみたる顏付を見るに及びては、我魘夢の儼然としてうごかすべからざる事實なるを認めざることを得ざりき。
 皇后きさきは時平公の妹なれば内外より讒毒ざんどくを流して若帝わかみかどの御心をうごかし奉りたるなり。
「はあ、」ときまり悪げに男と見合ってた顔の筋をうごかして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荒尾は可忌いまはしげにつぶやきて、やや不快の色をうごかせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それをば土手にむらがる水鳥が幾羽となく飛入っては絶えず、羽ばたきの水沫しぶきうごかし砕く。岸に沿うて電車がまがった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さにてもなし、」とまだいわけなくもいやしむいろえ包までいふに、皆をかしさにへねば、あかめし顔をソップ盛れる皿の上にれぬれど、黒ききぬの姫はまつげだにうごかさざりき。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
 皇后きさきは時平公の妹なれば内外より讒毒ざんどくを流して若帝わかみかどの御心をうごかし奉りたるなり。
折々吹く風がバタリと窓のすだれうごかすと、その間から狭い路地を隔てて向側むかいがわの家の同じような二階の櫺子窓れんじまどが見える。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
Ottoオットオ Weiningerワイニンゲル というのだ。僕なんぞはニイチェからのちの書物では、あの人の書いたものに一番ひどくうごかされたと云ってもいが、あれがこう云う議論をしていますね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うごかしたる象形的幻想を主として構成せられた写実的外面の芸術であると共にまたこの一篇は絶えず荒廃の美を追究せんとする作者のみがたき主観的傾向が
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日本のロータスうごかがたいトラジションを持っている。ギリシヤの物語で神女ナンフたわむうか水百合ネニュフワールとは違う。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われは唯西洋の文芸美術にあらざるもなほ時としてわが情懐じょうかいを託するに足るものあるべきを思ひ、故国の文芸中よりわが現在の詩情をうごかし得るものを発見せんとつとむるのみ。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
古今の浮世絵にして男女相愛のさまを描きしもの枚挙まいきょいとまあらず。然れども春信の板画の如く美妙に看者かんしゃの空想をうごかすものはまれなり。春信の板画は布局ふきょく設色せっしょく相共あいともに単純を極む。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
檀那様だんなさま御飯ができましたが。」と言う声に、びっくりしてあたりを見廻すと、日はいつか暮れかけたと見え、座敷の中は薄暗くなって、風がさびに庭の木をうごかしている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
柳橋はうごかし難い伝説の権威を背負っている。それに対して自分はなまめかしい意味においてしん橋の名を思出す時には、いつも明治の初年に返咲かえりざきした第二の江戸を追想せねばならぬ。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)