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錐
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きり
ふりがな文庫
“
錐
(
きり
)” の例文
あの人はそれから、椅子に腰をかけて、
抽斗
(
ひきだし
)
から
錐
(
きり
)
と
紙撚
(
こより
)
をとり出し、レター・ペーパーの隅っこに穴をあけてそれを
綴
(
つづ
)
りこんだ。
オパール色の手紙:――ある女の日記――
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
あの毒棒は、押
釦
(
ボタン
)
一つおすと、一回に十本の
錐
(
きり
)
が、さきにおそろしい毒をつけたまま、相手の身体にぐさりとつき刺すのであった。
少年探偵長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
輕捷
(
けいせふ
)
で素早くて、手に了へない上に、何處に隱し持つて居たか、細い
錐
(
きり
)
のやうな
匕首
(
あひくち
)
が、相手の急所を狙つて縱横に飛ぶのです。
銭形平次捕物控:319 真珠太夫
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
次郎は始終熱心にそれを見ており、自分でも何かと手伝ったりしたが、恭一は、鰻の頭に
錐
(
きり
)
が突きさされるごとに眼をそらした。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
と
老爺
(
じじい
)
は泰然たる
返答
(
へんじ
)
をして、風呂場を見に行った。乃公は
錐
(
きり
)
で
揉
(
も
)
んだ穴を見つけられると困るから、直ぐ二階へ上って本を読み始めた。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
▼ もっと見る
疲れてふと洞窟の
床
(
ゆか
)
へ身を投げて
臥
(
ふ
)
すと、
昏々
(
こんこん
)
として二日もさめないことがある。そんな時、
頭心
(
とうしん
)
だけが
錐
(
きり
)
のように
研
(
と
)
げていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
この青年の
嘗
(
かつ
)
て動き流れていたものが、誰からかたった
錐
(
きり
)
一本を心の利目に打ち込まれたために、停ってしまったのではないか。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私の入れられた箱は、四方とも
塞
(
ふさ
)
がれていて、たゞ、出入口の小さな戸口のほかには、空気抜きのため
錐
(
きり
)
の穴が二つ三つつけてありました。
ガリバー旅行記
(新字新仮名)
/
ジョナサン・スウィフト
(著)
(一)
錐
(
きり
)
のようなするどいもので突き通すこと、(二)ものを震えさせること、(三)突き通すような感動をあたえること、身震いしたり
探偵小説の「謎」
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
お銀様は、筆誅を加えるほどの意気組みで、その名を
錐
(
きり
)
で揉み込むほど強く木片に
認
(
したた
)
めて、長いこと睨みつづけておりました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
女の青い
縞
(
しま
)
のはんてんを羽織って立っている私は、
錐
(
きり
)
で
腋
(
わき
)
の下を刺され
擽
(
くす
)
ぐられ刺されるほどに、たまらない思いであった。
狂言の神
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
底に当たる節の隔壁に
錐
(
きり
)
で小さな穴を明けておいて開いた口を吸うと羊羹の棒がなめらかに抜け出して来る、それを短く歯でかみ切って食う
自由画稿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
錐
(
きり
)
か何かで穴を明けて、
鰹節
(
かつおぶし
)
などを差込んで置くと、そこから虫が附き始めるというのです。原因は知らず、木はやがて枯れてしまいました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
まるで
錐
(
きり
)
でも
揉
(
も
)
みこむような、するどい無遠慮な眼つきで、じっと彼の顔をみつめ、それから、きめつけるように云った。
赤ひげ診療譚:01 狂女の話
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
鰻屋の職人らしい、
印半纏
(
しるしばんてん
)
を着た片眼の男が手に針か
錐
(
きり
)
のようなものを持って、わたくしの眼を突き刺そうとしています。
鰻に呪われた男
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
何が箱の中に入っていたか? 日本の国内では見られないような、精巧を極めた
洋鑢
(
ようやすり
)
だの、メスだの
錐
(
きり
)
だのの道具類が、整然として入っていた。
生死卍巴
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それは
石
(
いし
)
の
錐
(
きり
)
(
石錐
(
せきすい
)
)といふものです。また、
石匙
(
いしさじ
)
といふものがありますが、
昔
(
むかし
)
の
人
(
ひと
)
の
天狗
(
てんぐ
)
の
飯匙
(
めしさじ
)
といつてゐたものです。
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
といって、
太
(
ふと
)
い
錐
(
きり
)
を
出
(
だ
)
して、
火
(
ひ
)
の中につっ
込
(
こ
)
んで
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
に
焼
(
や
)
きました。この
焼
(
や
)
いた
錐
(
きり
)
を木の
櫃
(
ひつ
)
の上からさし
込
(
こ
)
みますと、中で
山姥
(
やまうば
)
が
寝
(
ね
)
ぼけた
声
(
こえ
)
で
山姥の話
(新字新仮名)
/
楠山正雄
(著)
手紙
(
そこ
)
にも書いてあります様に、助役の一行が十方舎へ乗込んだ時には、もうその娘の親爺は、脇腹から心臓めがけて大きな
錐
(
きり
)
を突立てられたまま
とむらい機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
病身らしい小男で、いかめしい顔をし、眼の上に筋があって、
錐
(
きり
)
のように人を刺し通す鋭い直線的な眼つきをしていた。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
皆々怪しんで地上へ引き出し、汝何者ぞと問えど返事せぬ故、
錐
(
きり
)
で一所刺すと、初めて、我を持ちて大道傍に置かば我名をいう者来るはずと語った。
十二支考:06 羊に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
錐
(
きり
)
で
揉
(
も
)
むような痛みを感じて私は又頭を枕に落ち付けた。そうして何事も考えられぬ苦しさのため息をホッと
吐
(
つ
)
いた。
あやかしの鼓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「一体朝吹君や益田君は、以前せつせと高野山を
渉猟
(
あさ
)
り歩いて、自分の
蒐集
(
コレクシヨン
)
を拵へた人達なんぢやないか。」と
富豪
(
かねもち
)
は
錐
(
きり
)
のやうな言葉を投げつけた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
やあ、僕の理想は多角形で光沢があるの、やあ、僕の神経は
錐
(
きり
)
の様に
尖
(
とン
)
がって来たから、是で一つ神秘の門を
突
(
つッ
)
いて見る
積
(
つもり
)
だのと、
其様
(
そんな
)
事ばかり言う。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
どじょう
割
(
さ
)
きは、
素人
(
しろうと
)
の手に負えぬものとなっているが、それは急所に
錐
(
きり
)
が打ち込めないからで、その急所は目の付け根とおぼしいところの背骨にある。
一癖あるどじょう
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
そして暗灰色の曇り空の中にちょっぴりした鮮かな雪の色は思いがけなく僕の心に
錐
(
きり
)
のような痛みを感じさせた。
石ころ路
(新字新仮名)
/
田畑修一郎
(著)
南に富士川は
茫々
(
ばう/\
)
たる乾面上に、
錐
(
きり
)
にて刻まれたる
溝
(
みぞ
)
となり、一線の針を
閃
(
ひらめ
)
かして落つるところは駿河の海、
銀
(
しろがね
)
の
砥
(
と
)
平らかに、
浩蕩
(
かうたう
)
として天と
一
(
いつ
)
に
融
(
と
)
く。
霧の不二、月の不二
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
白馬岳の頂上は未だ見られないが、左手を眺めると杓子岳続きの一岩峰が
錐
(
きり
)
のように
尖
(
とが
)
った頭を高く天空に刺し、岩骨削るが如く、一草一木を生じない。
白馬岳
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
売物と
毛遂
(
もうすい
)
が
嚢
(
ふくろ
)
の
錐
(
きり
)
ずっと突っ込んでこなし廻るをわれから悪党と
名告
(
なの
)
る悪党もあるまいと俊雄がどこか
俤
(
おもかげ
)
に残る
温和
(
おとなし
)
振りへ目をつけてうかと口車へ腰を
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
同樣にして
鉋
(
かんな
)
の如くに
運動
(
うんどう
)
さする仕方も有り一片の木切れに
細
(
ほそ
)
き
棒
(
ぼう
)
の先を當てて
錐
(
きり
)
の如くに
揉
(
も
)
む
仕方
(
しかた
)
も有るなり。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
やがて
小六
(
ころく
)
は
自分
(
じぶん
)
の
部屋
(
へや
)
へ
這入
(
はい
)
る、
宗助
(
そうすけ
)
は
御米
(
およね
)
の
傍
(
そば
)
へ
床
(
とこ
)
を
延
(
の
)
べて
何時
(
いつ
)
もの
如
(
ごと
)
く
寐
(
ね
)
た。五六
時間
(
じかん
)
の
後
(
のち
)
冬
(
ふゆ
)
の
夜
(
よ
)
は
錐
(
きり
)
の
樣
(
やう
)
な
霜
(
しも
)
を
挾
(
さしは
)
さんで、からりと
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
つた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
近ごろ手をつけたような跡が少しでもあれば、すぐに我々の眼につかないはずはない。たとえば、
錐
(
きり
)
くずの一粒でも、
林檎
(
りんご
)
みたいにはっきりしたでしょうよ。
盗まれた手紙
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
白い
柔
(
やわら
)
かな
円石
(
まるいし
)
もころがって来、小さな
錐
(
きり
)
の形の
水晶
(
すいしょう
)
の粒や、
金雲母
(
きんうんも
)
のかけらもながれて来てとまりました。
やまなし
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
といひかけると、こんどは足の中へ
錐
(
きり
)
でももみこむやうに痛くなつてきましたので、もうたへられなくなり
百姓の足、坊さんの足
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
例えば
孔
(
あな
)
のあいたコルクが入用とすると、コルクとコルク
錐
(
きり
)
を入れてある引出しに行って、必要の形に作り、それから錐を引出しにしまって、それをしめる。
ファラデーの伝:電気学の泰斗
(新字新仮名)
/
愛知敬一
(著)
錐
(
きり
)
を紅く焼きて木の唐櫃の中に差し通したるに、ヤマハハはかくとも知らず、ただ二十日鼠が来たと言へり。
遠野物語
(新字旧仮名)
/
柳田国男
(著)
而かもまた無心無我の極にあつて、既に恐るべき悪魔的天才の萌芽を示した
雋鋭
(
せんえい
)
錐
(
きり
)
の如き近代の神経と感覚。驚くべきこの犯罪はただ手もなくやつつけられた。
神童の死
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
彼の目は
錐
(
きり
)
のごとく、冷たくそして鋭かった。彼の一生は二つの言葉につづめられる、監視と取り締まりと。彼は世間の曲りくねったものの中に直線を
齎
(
もたら
)
した。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
斯
(
か
)
うして
彼
(
かれ
)
の
卯平
(
うへい
)
に
對
(
たい
)
する
憎惡
(
ぞうを
)
の
念
(
ねん
)
が
彼
(
かれ
)
の
心
(
こゝろ
)
へ
錐
(
きり
)
を
穿
(
うが
)
つて
更
(
さら
)
に
釘
(
くぎ
)
を
以
(
もつ
)
て
確然
(
しつか
)
と
打
(
う
)
ちつけられたのであつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
が、
錐
(
きり
)
で刺すような寒さに身内がぞくぞくして
迚
(
とて
)
も
静然
(
じっ
)
としていられないので、彼女は再び歩きだした。
碧眼
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
「
錐
(
きり
)
でもよいし、小刀の先でもよい。ちょいと突ッつくだけなんだよ。痛くもなんともありやしないよ」
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
疲れた時には舟の小縁へ持って行って
錐
(
きり
)
を立てて、その錐の上に
鯨
(
くじら
)
の
鬚
(
ひげ
)
を据えて、その鬚に持たせた
岐
(
また
)
に
綸
(
いと
)
をくいこませて休む。これを「いとかけ」と申しました。
幻談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
モンターニアを
虐
(
しひた
)
げし古き新しきヴェルルッキオの
猛犬
(
あらいぬ
)
は
舊
(
もと
)
の處にゐてその齒を
錐
(
きり
)
とす 四六—四八
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
そう云って、隠していた
小刀
(
ナイフ
)
の
錐
(
きり
)
を、ポンと床のうえに投げ捨てたが、そうして、彼の詭策が成功したにもかかわらず、またもとの憂鬱な表情に帰ってしまうのだった。
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
沈黙におちると、もう夜のふけわたったことが、
錐
(
きり
)
で耳を刺すように、しんしんと感じられます。
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
其
(
それ
)
も
唯
(
たゞ
)
、
苦
(
くる
)
しいので、
何
(
なん
)
ですか
夢中
(
むちう
)
でしたが、
今
(
いま
)
でも
覺
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
りますのは、
其時
(
そのとき
)
、
錐
(
きり
)
を、
貴方
(
あなた
)
、
身節
(
みふし
)
へ
揉込
(
もみこ
)
まれるやうに、
手足
(
てあし
)
、
胸
(
むね
)
、
腹
(
はら
)
へも、ぶる/\と
響
(
ひゞ
)
きましたのは
浅茅生
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
耳の病を祈るしるしとして幾本かの鋭い
錐
(
きり
)
を編み合わせたもの、女の乳
搾
(
しぼ
)
るさまを小額の
絵馬
(
えま
)
に描いたもの、あるいは長い女の髪を切って麻の
緒
(
お
)
に結びささげてあるもの
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
また、
疾瘡
(
しっそう
)
をうれうるものが両国橋の中央に至り、
飛騨
(
ひだ
)
の国
錐
(
きり
)
大明神と念じて北の方へむかい、
錐
(
きり
)
三本ずつ川中に投じつつ礼拝すれば、平癒するとのマジナイもあるそうだ。
迷信と宗教
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
この
錐
(
きり
)
といふのは千枚通しの丈夫な錐であつて、これを買ふてから十年余りになるであらう。
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
ペンペのからだが
黒
(
くろ
)
い
小
(
ちひ
)
さな
點
(
てん
)
になつて、グーッグーッと
錐
(
きり
)
を
揉
(
も
)
むやうに
下界
(
した
)
に
墜
(
を
)
ちてゆくのがわかつた。やがてそれも
見
(
み
)
えなくなつてしまつた。ペンペはどうなつたらうか。
火を喰つた鴉
(新字旧仮名)
/
逸見猶吉
(著)
“錐”の意味
《名詞》
(きり)板材などに小穴をあける工具。とがった細い金属の棒を木の柄につけたもの。
(スイ :幾何学)錐体。
(出典:Wiktionary)
錐
漢検準1級
部首:⾦
16画
“錐”を含む語句
立錐
円錐形
円錐
錐揉
石錐
角錐
目錐
錐末
錐形
錐体
試錐
焼錐
複六方錐
螺錐
舞錐
紡錐形
錐栗
穿顱錐
稜錐状
稜錐塔
...