茶店ちゃみせ)” の例文
永年ながねんの繁盛ゆえ、かいなき茶店ちゃみせながらも利得は積んで山林田畑でんぱたの幾町歩は内々できていそうに思わるれど、ここの主人あるじに一つの癖あり
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小女こむすめはその間を通って静かに茶店ちゃみせの方へ往った。山西は一けんばかりの距離を置いてゆっくりと、そしてあたりに注意して歩いた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
茶店ちゃみせの裏手は遠近おちこちの山また山の山続きで、その日の静かなる海面よりも、一層かえって高波をうねらしているようでありました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは、青草あおくさうえこしをおろそうとしたが、そばにちいさな茶店ちゃみせがあるのにづいたので、さっそくはいって腰掛こしかけへやすみました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
渡しを渡った向岸むこうぎし茶店ちゃみせそばにはこの頃毎日のように街の中心から私をたずねて来る途中、画架がかを立てて少時しばらく河岸かしの写生をしている画学生がいる。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
六部ろくぶは「はてな。」とくびをかしげながら、そのままとおりすぎていきますと、むらはずれに一けんの茶店ちゃみせがありました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
というとはねおきた一方の男は、脱兎だっとのごとく茶店ちゃみせのそとへ飛びだして、なにか大声で向こうの並木なみきへ手をふった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百姓ひゃくしょうさんはすぐさまとんでいって、大きなポケットへ、はいるだけぎゅうぎゅうにつめこみました。それから、茶店ちゃみせへいって、金をすっかりかぞえてみました。
森「訳が分らねえ……人が立っていけねえよ、己に話して聞かせねえ、待ちねえよ、むこうの都鳥と云う茶店ちゃみせきねえ……何を見やアがる、狂気きちげえでもんでもねえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
足の悪いお新さんと鶴子を茶店ちゃみせに残して、余はくつのまゝ、二人の女は貸草履に穿えて上りはじめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
陽気も急にあたゝかくなりました。小田原から電車で国府津に着きまして、そこの茶店ちゃみせで小田原土産みやげの梅干を買ひました。それは母から頼まれてゐたのでございます。
正面に象の小舎こやがあり、左手に茶店ちゃみせがあり、右手の岡の上にライオンや虎や豹のいる所がある。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
村から町へいくとちゅう、道ばたに大きい松が一本あり、そのかげに茶店ちゃみせが一軒ありました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
わたくしは墓地の手前にある苗畠なえばたけの左側からはいって、両方にかえでを植え付けた広い道を奥の方へ進んで行った。するとそのはずれに見える茶店ちゃみせの中から先生らしい人がふいと出て来た。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国民学校の前に茶店ちゃみせ風の家があって、その前に縁台を置き、二三人の特攻隊員が腰かけ、酒をのんでいた。二十歳前後の若者である。白い絹のマフラーが、変に野暮やぼったく見えた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
途中何とう処か知らぬが、左側の茶店ちゃみせで、一合いちごう十四文の酒を二合飲んで、大きなたけのこの煮たのを一皿と、飯を四、五杯くって、れからグン/″\歩いて、今の神戸あたりは先だかあとだか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この人は今着きし汽車にて、ドレスデンより来にければ、茶店ちゃみせのさまの、かしことこことことなるに目を注ぎぬ。大理石の円卓まるづくえ幾つかあるに、白布しらぬの掛けたるは、夕餉ゆうげ畢りしあとをまだ片附けざるならむ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
杖をこみち突立つきたて/\、辿々たどたどしく下闇したやみうごめいてりて、城のかたへ去るかと思へば、のろく後退あとじさりをしながら、茶店ちゃみせに向つて、ほっと、立直たちなおつて一息ひといきく。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少年しょうねんは、その茶店ちゃみせからて、おかみさんにおしえられたみちほうへ、って、とぼとぼとあゆみをつづけたのです。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こういう一種の恍惚感こうこつかんひたって私はまた、茶店ちゃみせの美少年の前を手を振って通り、家の中二階へ戻る。私は自分が人とかわっているのにときどきは死にくなった。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まっ黒になって茶店ちゃみせの入口になだれこみ、あッと宮内くないがあきれるうちに、床几しょうぎの上にすえておいた地蔵菩薩じぞうぼさつ笈摺おいずるを、ひとりの男が土足どそくでガラガラとけおとした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六部ろくぶ茶店ちゃみせやすんで、おちゃみながら、おばあさんを相手あいてにいろいろのはなしをしたついでに
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一軒の茶店ちゃみせのような家が眼の前にあった。そこはみちの幅も広くなっていた。一けんくらいの入口には納涼台すずみだいでも置いたような黒い汚い縁側えんがわがあって、十七八の小柄な女が裁縫さいほうをしていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
遠江国とおとうみのくに日坂にっさか宿しゅくに近い小夜さよ中山街道なかやまかいどう茶店ちゃみせへ、ひとりの女があめを買ひに来た。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのも、海蔵かいぞうさんよりさきに三にん人力曳じんりきひきが、茶店ちゃみせなかやすんでいました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
公園の入口に、樹林を背戸せどに、蓮池はすいけを庭に、柳、ふじ、桜、山吹やまぶきなど、飛々とびとびに名を呼ばれた茶店ちゃみせがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おおぜいのちからですると、どんなことでもされるものです。おおきなさくらは、じゃまにならぬところへうつされて、おばあさんの茶店ちゃみせは、やはりそのしたにたてられました。
青葉の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
菊村宮内きくむらくないは、きのうはからず阿弥陀街道あみだかいどう茶店ちゃみせで、この女房にょうぼうがわるい街道人足かいどうにんそく迫害はくがいされているのをみかけて助けたことから、ここへくるまでのみちみちに、その身の上を聞いたので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新吉はその前を通って、一またぎぐらいしか無いその橋を渡り終り、すこし右に折れ曲って右側の茶店ちゃみせの傍へ往った。わかい女学生風の女が何か考えてでもいるように前屈まえかがみになって歩いていた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つぎ大野おおのまちきゃくおくってきた海蔵かいぞうさんが、むら茶店ちゃみせにはいっていきました。そこは、むら人力曳じんりきひきたちが一仕事ひとしごとしてると、つぎのおきゃくちながら、やすんでいる場所ばしょになっていたのでした。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おもいながら、茶店ちゃみせを出ました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さみしいにも、第一の家には、旅人の来て宿るものは一にんも無い、と茶店ちゃみせで聞いた——とまりがさて無いばかりか、みまわして見ても、がらんとした古家ふるいえの中に、其のおんなばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はやく、おきゃくがくればいいのになあ、と海蔵かいぞうさんはをほそめてあかるいみちほうていました。しかしおきゃくよりさきに、茶店ちゃみせのおかみさんが、きたてのほかほかの大餡巻おおあんまきをつくってあらわれました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ふもとへ十四五ちょうへだたつた、崖の上にある、古い、薄暗い茶店ちゃみせいこつた時、裏に鬱金木綿うこんもめんを着けたしま胴服ちゃんちゃんこを、肩衣かたぎぬのやうに着た、白髪しらがじいの、しもげた耳に輪数珠わじゅずを掛けたのが
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さっきの茶店ちゃみせからここへ来るまで、売薬の外はだれにもわなんだことは申上げるまでもない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不思議な光景ようすは、美しき女が、針のさきで怪しき魔をあやつる、舞台に於ける、神秘なる場面にも見えた。茶店ちゃみせの娘と其の父は、感に堪へた観客の如く、呼吸いきを殺して固唾かたずを飲んだ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
上端あがりばなに客を迎顔むかえがお爺様じいさまの、トやつた風采ふうさいは、建場たてばらしくなく、墓所はかしょ茶店ちゃみせおもむきがあつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)