ささ)” の例文
上田の市中でも、月送りの八月六日の夕七夕祭を行うが、翌朝未明にそのささを流しに行って、川で泳ぐことを眠流ねむりながしと呼んでいる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ささ間詰まづめ、お庭の者、などと称される隠密の役は、駿河台の甲賀組、四谷の伊賀組、牛込の根来ねごろ組、こう三ヵ所に組屋敷があった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからお庭の芝生の上に籐椅子とういすをはこび、そこで編物を仕様と思って、籐椅子を持ってお庭に降りたら、庭石のささのところに蛇がいた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
風がないので竹は鳴らなかったけれども、眠ったように見えるそのささの葉のこずえは、季節相応な蕭索しょうさくの感じを津田に与えるに充分であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて私はまた竹藪たけやぶに沿うた坂を下って、田圃たんぼそば庚申塚こうしんづかのある道や、子供の頃ささを持ってほたるを追い回した小川の縁へ出て来ましたが
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
とおばあさんがひました。太郎さんは顔をあげて、おもしろく模様形をしたささの葉のかげを、しばらく見てゐましたが
狐に化された話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
吾輩幼時和歌山で小児をねむらせるうたにかちかち山の兎はささの葉を食う故耳が長いというたが、まんざら舎々迦ささかてふ梵語にって作ったのであるまい。
シルエットの世界には遠い遠い過去の人生の幻影といったようなもののささべりが付帯している。ここから実物の写真では表現し難い詩が生まれ出る。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
青々としたささの葉の上には、まだ生きているようなかれい幾尾いくひきかあった。それを見せに来た。婆さんは大きな皿を手に持ったまま、大塚さんの顔をながめて
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手早てばやささの葉をほどくと、こわいのがしやつちこばる、つつみの端をおさへて、草臥くたびれた両手をつき、かしこまつてじっと見て
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一歩も退かぬ決意の寄手の激しい攻撃に、瀬尾の者たちは大方討ちとられ、城は壊滅に陥った。夜になっても寄手の攻めは衰えず、遂にささせまりは破られた。
そこはささの茂つたところでしたが、あたりに三本も大きな栗の木が枝をひろげてゐるので、足で笹を踏み分けてさがすと、イガに入つたまゝの瑞々みづみづしい栗や
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
熊手の代りにささ枝にいもを貫いたのと切山椒きりざんしょうを買って美佐子のお土産にし、熊手は鷲神社でそれぞれが買った。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
十一日は陰暦の七夕たなばたの前日である。「ささは好しか」と云って歩く。翌日になって見ると、五色の紙に物を書いて、竹の枝に結び附けたのが、家毎いえごとに立ててある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
いたいたしいはぎの露や、落ちそうなささの上のあられなどにたとえていいようなえんな恋人を持つのがいいように今あなたがたはお思いになるでしょうが、私の年齢まで
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
八月は小学校も休業やすみだ。八月七日は村の七夕たなばた、五色の短冊たんざくさげたささを立つる家もある。やがて于蘭盆会うらぼんえ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
山の天気は変わりやすく、アレ! 雨かしら? と思ううちに、一山ゴウッととどろきわたって、大粒な水滴が、まるで小石のように縁先のささの葉をうち鳴らす。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白くむき出しになった深い木の根や、浅いところにはささの根やイラ草の地下茎などもとびだしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
源に教えられたとおり、一つめのかけはしを渡ると、左にはざまがあった。勾配こうばいの急な狭いはざまで、ささを掴みながらまっすぐに登り、登り詰めたところで右へ曲った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「———キッキョウって、ほら、あれじゃないの。十日戎とおかえびすの日に西宮にしのみやや今宮で売ってる、ささの枝に小判だの大福帳だの千両箱だのを結い着けた、あれのことじゃないの」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
杉の古樹こじゅの陰にささやらならやらが茂って、土はつねにじめじめとしていた。晴れた日には、夕方の光線がななめに林にさしとおって、向こうに広い野の空がそれとのぞかれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
若僧 (同じ姿を保ち)怪しい物のがきこえる。女人の髪の毛がささの上を流れて行くような。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
このをとこことけるな、なにつてもうそおもへ、——おれはそんな意味いみつたへたいとおもつた。しかしつま悄然せうぜんささ落葉おちばすわつたなり、ぢつとひざをやつてゐる。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
じんの崖上わづかに一条のささたのみてぢし所あり、或は左右両岸の大岩すであしみ、前面の危石まさに頭上にきたらんとする所あり、一行おおむね多少の負傷をかうむらざるはなし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
傍にはささばかり残った食べ荒しのすしの皿やからになったどんぶりのようなものがほうり出されてあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どじょうなべの要点はだしで、表側の卵を汚さぬ工夫、だしをささがきごぼうの下にだぶだぶ残さない工夫、卵を笹がきの中まで沈めない工夫、この三つができたら本格である。
一癖あるどじょう (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
夕方から時雨しぐれて来れば、しよげ返る波は、ささの葉にあられがまろぶあのさびしい音を立てる波ではあるが、たとへいつがいつでもの川の流れの基調は、さらさらとひがまず、あせらず
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
附近のささの葉には、清君の身体からだから出た血らしいものがとんでいた。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また葉がささのようであるから、ササリンドウの名もある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
河鹿かじかの鳴く声。さやさやと鳴るささの葉ずれの音。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
一、ささゆき横町に美しき氷店出来しゅったいの事
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
秋山やくぬぎをはじきささを分け
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ささの雪じゃアないかネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ささあられおとてる。
小さなささの小屋が一つ
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
と、いいのこして、そこを立とうとすると、なんだろう? 周囲しゅういやみ——樹木じゅもくささ燈籠とうろうのかげに、チカチカとうごく数多あまた閃光せんこう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根子立ねつこだちといふ山に入り、ささりて束となしかつぎて立ち上がらんとする時、笹原の上を風の吹き渡るに心付きて見れば
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
通町とおりちょうでは暮の内から門並揃かどなみそろい注連飾しめかざりをした。往来の左右に何十本となく並んだ、軒より高いささが、ことごとく寒い風に吹かれて、さらさらと鳴った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
椰子やしの林に野羊が遊んでいる所もあった。ささ垣根かきねが至るところにあって故国を思わせる。道路はシンガポールの紅殻色べんがらいろと違ってまっ白な花崗砂かこうしゃである。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
男の児の節句も近づいたことを思わせるそのささの葉の蒸された香気においは、節子の口から彼女の忘れようとして忘れ得ない子供のうわさを引出すに十分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これはまた余りになさけない。町内の杢若もくわかどのは、古筵ふるむしろの両端へ、ささの葉ぐるみ青竹を立てて、縄を渡したのに、幾つも蜘蛛くもの巣を引搦ひっからませて、商売あきないをはじめた。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瀬尾は備前の福隆寺畷ふくりゅうじなわてささせまりに城を構え、防禦の陣を急造した。楯垣を立て並べ、やぐらを立て、逆茂木を植え、城には幅二丈、深さ二丈の堀を掘って、待ち受けた。
裏は崖下がけしたの広い空地で、厚くしげったささや夏草の上を、真昼の風がざわざわと吹き渡った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
べか舟というのは一人乗りの平底舟で、多く貝や海苔のり採りに使われ、ささのような軽快なかたちをしてい、小さいながら中央に帆桁ほげたもあって、小さな三角帆を張ることができた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ささの葉の影が障子のすその方へ低くなりました。お月さまが高くなつたのです。
狐に化された話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
をつとはこの言葉ことばいたとき、やつとくちびるうごかしました。勿論もちろんくちにはささ落葉おちばが、一ぱいにつまつてゐますから、こゑすこしもきこえません。が、わたしはそれをると、たちまちその言葉ことばさとりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人家がつきると、昔の城址しろあとでもあったかと思われるような土手とほりとがあって、土手にはささや草が一面に繁り、濠には汚ないびた水がかししい大木たいぼくの影をおびて、さらに暗い寒い色をしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
けうに乗じて横臥わうぐわすれば、時々笹蝨ささむしたいして眼をますあり、痛痒つうしやう頗るはなはだし、之れささを臥床となすを以て、之に寄生せるむしひ来れるなり、夜中吉田署長きうに病み、脉搏みやくはく迅速にして発熱はつねつ甚し
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
それは熊野浦でれた鯖を、ささに刺して山越しで売りに来るのであるが、途中、五六日か一週間ほどのあいだに、自然に風化されて乾物ひものになる、時には狐にその鯖の身をさらわれることがある
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ささをとってくるようにとお咲さんにいいつけられまして——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)