矢先やさき)” の例文
私共も身体が弱いからひどい病気でも起らないかどうか、一遍おい申して見て戴きたいと思うて居った矢先やさきでございました
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ウンウン藻掻もがいている真中まんなかで、自分一人がグーグー眠れたらドンナにか愉快だろう……なんかと、そんな事ばっかりを、一心に考え詰めている矢先やさき
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでなくてさえ、みんなは、なにかめずらしい、愉快ゆかいなことはないかとおもっていた矢先やさきですから、それをきくと、つばかりにうれしかったのです。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いまや観光団が来るという矢先やさきに、こんな大規模のハナショウブ園を新設するのは、このうえもない意義がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あいちやんはすこぶ失望しつばうしてだれかにたすけてもらはうとおもつてた矢先やさきでしたからうさぎそばたのをさいはひ、ひく怕々おど/\したこゑで、『萬望どうぞ貴方あなた——』とひかけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
探がし探がして探がし得ず、がっかりした容子ようすは、主人の眼にも笑止しょうしに見えた。其様そんな事で弱って居る矢先やさき、自動車にかるゝ様なことになったのだろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それに自分じぶんでも可成かな後悔こうくわいしかけてゐる矢先やさきだつたのが、反撥的はんぱつてきに、をつと氣持きもちをあまのじやくにした。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
わたしはもうみちがなくなって、とうとう二人ふたり武士ぶし矢先やさきにかかってたおれました。けれどもからだだけはほろびても、たましいはほろびずに、この石になってのこりました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかし口へ出していうほどの事でもないので、何か話題の変化をと望む矢先やさきへ、自然に思い出されたのは長告が子供の時分の遊び友達でおいとといった煎餅屋せんべいやの娘の事である。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
親類しんるいかほうつくしきもければたしとおもねんもなく、裏屋うらや友達ともだちがもとに今宵こよひ約束やくそく御座ござれば、一まついとまとしていづ春永はるなが頂戴ちやうだい數々かず/\ねがひまする、をりからお目出度めでたき矢先やさき
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もう少し切り込みたいと云う矢先やさきへ持って来て、ざああと水をけるのが中野君の例である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それもこれも、いまはもうきのうのゆめえるばかり。所詮しょせんえないものと、あきらめていた矢先やさき、ほんとうによくてくれた。あたしゃこのままんでも、おものこすことはない。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ところが、丁度ちやうどわたしせつひまもらつて、かはつた空氣くうきひに出掛でかけやうとおもつてゐる矢先やさき如何どうでせう、一しよ付合つきあつてはくださらんか、さうして舊事ふるいことみんなわすれてしまひませうぢやりませんか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おほ神のいはへる國のますらをの矢先やさきに向ふあたあらめやは (千種有功)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
右大臣うだいじんちかねて、自分じぶんでもとほうみして、たつつけ次第しだい矢先やさきにかけて射落いおとさうとおもつてゐるうちに、九州きゆうしうほうながされて、はげしい雷雨らいうたれ、そののち明石あかしはまかへされ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
町はかなえのわくがごとく流言蜚語りゅうげんひごが起こった。不正工事の問題が起こりつつあり、大疑獄だいぎごくがここに開かれんとする矢先やさきに役場に放火をしたものがあるということは何人なんぴとといえども疑わずにいられない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
真ン中をねらって矢先やさきに力あり
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
それにあちらへお味方みかたがった武士ぶしの中で、いくらか手ごわいのはわたくしのあに義朝よしとも一人ひとりでございますが、これとてもわたくしが矢先やさきにかけてたおしてしまいます。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかし口へ出してふほどの事でもないので、なにか話題の変化をと望む矢先やさきへ、自然に思ひ出されたのは長吉ちやうきちが子供の時分じぶんの遊び友達でおいとつた煎餅屋せんべいやの娘の事である。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御米およね此頃このごろをつと樣子やうす何處どこかに異状いじやうがあるらしくおもはれるので、内心ないしんでは始終しじゆう心配しんぱいしてゐた矢先やさきだから、平生へいぜいらない宗助そうすけ果斷くわだんよろこんだ。けれどもその突然とつぜんなのにもまつたおどろいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、丁度ちょうどわたしもこのせつひまもらって、かわった空気くうきいに出掛でかけようとおもっている矢先やさき、どうでしょう、一しょ付合つきあってはくださらんか、そうして旧事ふるいことみんなわすれてしまいましょうじゃありませんか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
このうたがいのとけぬ矢先やさきに手塚はこういう報告をもたらした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのうち高丸たかまる田村麻呂たむらまろするど矢先やさきにかかって、乱軍らんぐんの中ににしてしまいました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
自分じぶん自分じぶん仕事しごとをしてたくてならない矢先やさきへ、おなくわ出身しゆつしんで、小規模せうきぼながら專有せんいう工場こうば月島邊つきじまへんてゝ、獨立どくりつ經營けいえいをやつてゐる先輩せんぱい出逢であつたのがえんとなつて、その先輩せんぱい相談さうだんうへ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長吉ちやうきちはいかほどあたゝか日和ひよりでも歩いてゐると流石さすがにまだ立春になつたばかりの事とてしばらくのあひだ寒い風をよけるところをと思ひ出した矢先やさき芝居しばゐ絵看板ゑかんばんを見て、のまゝせま立見たちみの戸口へと進み寄つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三ヶげつばかりして、やうや都合つがふいたので、ひさりに御米およねれて、出京しゆつきやうしやうとおも矢先やさきに、つい風邪かぜいてたのがもとで、腸窒扶斯ちやうチフス變化へんくわしたため、六十日餘ろくじふにちあまりをとこうへらしたうへ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長吉はいかほど暖い日和ひよりでも歩いているとさすがにまだ立春になったばかりの事とてしばらくの間寒い風をよける処をと思い出した矢先やさき、芝居の絵看板を見て、そのまま狭い立見たちみの戸口へと進み寄った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)