たま)” の例文
お家から三百メートルほどはなれたところにある、広い原っぱで、一太郎君は五年生の木村良雄きむらよしお君と、たま投げをして遊んでいました。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「なんでも、あのあたりだよ。」と、あに政二まさじくんは指図さしずをしておいて、自分じぶんは、またおともだちとほかのたま野球やきゅうをつづけていました。
草を分けて (新字新仮名) / 小川未明(著)
「像は子供ほどの大きさで、木像に色をつけたものだが、男體、女體それ/″\の額に夜光のたまがはめ込んである、これが大變だ」
もうひとつのかわった風景は、どんどん後へはなれていくわが地球が、とうとうすっかりたまの形に見えるようになったことである。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
眼のたまばかりで物を見る事は出来ない。耳ばかりで音は聞えない。その背後うしろには必ずや、全身の細胞の判断感覚がなければならぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼方此方かなたこなたに駈け𢌞つて、たまを投げてゐる學生の姿が、日の輝きと眺望ながめ廣濶ひろさに對して、小さく黒く影の動いて居るやうに見える。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
さらに近寄ってよく観ると、眼のたまは飛び出して、口からは舌を吐いて、あごからは泡をふいて、犬はもう死んでいるのであった。
五大洲はまっすぐなたまをだした。戞然かつぜんと音がした、見物人はひやりとした、球ははたして千三に向かった、千三は早くも右の方へよった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
小畑のたまはよく飛んだ。引きかえて、清三の球には力がなかった。二三度勝負しょうぶがあった。清三のひたいには汗が流れた。心臓の鼓動こどうも高かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
カチインと※ずきこ※てくる球突たまつきたまひゞきはさういふ塲面ばめん空氣くうき對應たいおうして、いかにもかんじの美しい、何ともいへない舞たい効果こうくわをなしてゐる。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかし私は、昔、たまころがしの店先きへ立った時位のうれしさをもってあらゆる動くものの速度や形の美しさを眺めている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
食卓ちゃぶだいの上には微暗い電燈がさがっていた。主翁はその電燈のたまをちょと見たあとで、右側をちらと見た。そこには庖厨かっての方へ出て往く障子があった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たまくことゝ、盆栽ぼんさいをいぢくることゝ、安カフェエの女をからかひに行くことぐらゐより、何の仕事も思ひ付かない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかるに、こちらでは、真実ほんとう精神統一せいしんとういつはいれば、人間にんげんらしい姿すがたせて、そばからのぞいても、たったひとつのしろっぽいたまかたちしかえませぬ。
すると目がぐるぐるっとして、ご機嫌きげんのいいおキレさままでがまるで黒い土のたまのように見えそれからシュウとはしごのてっぺんから下へ落ちました。
庭の一隅にあったテニスコオトで愉快そうにたまを打ち合っていらっしゃるのが、往来からもダリヤやフランス菊なぞの咲き乱れた間に垣間かいま見えました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
志「萩原君、君を嬢様が先刻さっきから熟々しけ/″\と見ておりますよ、梅の花を見るふりをしていても、眼のたままる此方こちらを見ているよ、今日はとんと君に蹴られたね」
私の知っている母は、常に大きな眼鏡めがねをかけて裁縫しごとをしていた。その眼鏡は鉄縁の古風なもので、たまの大きさが直径さしわたし二寸以上もあったように思われる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それらは夏の来ないうちに夏を済ませてしまったようなものだ。それらの、羽根の生えた種で出来た小さなたまの中だけは、もう秋になっているのだった!
文字通りに、私は(彼が屡々私のことをさう呼んだ)彼の眼のたまだつた。彼は、私を通して自然を見、本を見た。
胸からのどもとにつきあげて来る冷たいそして熱いたまのようなものを雄々おおしく飲み込んでも飲み込んでも涙がややともすると目がしらを熱くうるおして来た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お嫁さんは腰を掛けて滑稽こっけい雑誌を見ている。お婿さんと立会人とでたまを突いているというわけさ。婚礼の晩がこんな風では、行末ゆくすえどうなるだろうと思ったの。
岸から余り遠くない所に、天狼星てんらうせいが青く水に映つてゐる。其影のしみのやうに見える所を、長い間ぢつと見てゐると、ぢき側にたまの形をした栓の木の浮標が見える。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
フォルス監獄の屋根越しにシャールマーニュの中庭から獅子ししあなぐらへ、一盗賊から他の盗賊へあてて投げられた、あの一塊のパンのたまにほかならなかったのである。
電燈のスウィッチをひねろうとおもって、ふと目を挙げるとたまあか手巾ハンケチに包まれてあった。瞬間庸三は心臓がどきりとした。やがて卓のうえに立ってそれをいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
尚お視廻みまわすと、壁は元来何色だったか分らんが、今の所では濁黒どすぐろい変な色で、一ヵ所くずれを取繕とりつくろったあとが目立って黄ろいたまを描いて、人魂ひとだまのように尾を曳いている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
鼠股引氏は早速さっそくにそのたまを受取って、懐紙かいしで土を拭って、取出した小短冊形の杉板の焼味噌にそれを突掛つっかけてべて、余りの半盃をんだ。土耳古帽氏も同じくそうした。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くつさきもて押へたる五色ごしきたまを、小槌こづちふるひて横様よこざまに打ち、かの弓の下をくぐらするに、たくみなるは百に一つを失はねど、つたなきはあやまちて足など撃ちぬとてあわてふためく。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あたかも庭の飾りのたまのように、作品は聴衆を反映し、聴衆は作品を反映していた。クリストフは笑い出したい気持になって、顔をしかめた。それでもなお我慢していた。
夜にりては「レローイ」珈琲館かひいかんと云えるに行きたま歌牌かるたの勝負を楽むが捨難すてがた蕩楽どうらくなりしが、一夜あるよ夫等それらの楽み終りて帰り来り、球突たまつきたわむれを想いながら眠りにつきしに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
小さい童女は子供らしく喜んで走りまわるうちには扇を落としてしまったりしている。ますます大きくしようとしても、もう童女たちの力では雪のたまが動かされなくなっている。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
行って見るとインド人が四人、ナインピンスというのだろう、木のたまをころがして向こうに立てた棍棒こんぼうのようなものを倒す遊戯をやっている。暗い沈鬱ちんうつな顔をして黙ってやっている。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
乳母うばめに、じゃうえてゐたら、わかあたゝかいがあったら、テニスのたまのやうに、わし吩咐いひつくるやいな戀人こひゞととこんでき、また戀人こひゞと返辭へんじともわし手元てもと飛返とびかへってつらうもの。
電燈のたまが巴になって、黒くふわりと浮くと、炬燵こたつの上に提灯がぼうと掛かった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かまわずそばまで歩いてゆく。そこで熊がキーシュにつかみかかろうとする、するとあの子はすばやく逃げ出した。ところが逃げる時小さな丸いたまを一つ、ぽとりと氷の上に落したものだ。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
同時にネットの右や左へ薄白うすじろい直線をほとばしらせる。あれはたまの飛ぶのではない。目に見えぬ三鞭酒シャンパンを抜いているのである。そのまた三鞭酒シャンパンをワイシャツの神々が旨そうに飲んでいるのである。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
といいながらその絵をサラリと敷居の上へなげ、飲み残しの冷たい茶をゴクリと一息にのむと今度は眼鏡のたま袖口そでぐちでこすりながらのぞき込むようにじろりじろりと裕佐の顔を視入みいるのだった。
榎木えのきしたには、あかちひさなたまのやうなが、そこにも、こゝにも、一ぱいちこぼれてました。とうさんは周圍まはりまはつて、ひろつても、ひろつても、ひろひきれないほど、それをあつめてたのしみました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此頃このごろでは大概たいがい左翼レフトほうまはしてるが、先生せんせい其處そこからウンとちからめて熱球ダイレクトげると、そのたまがブーンとうなごゑはなつてんで有樣ありさま、イヤそのたまあたまへでもあたつたら、此世このよ見收みをさめだとおもふと
私はその時、撞球の象牙のたまを頭の中に眺めていた。きれいに拭きこまれた赤と白との象牙の球——あらゆる色合の光と物象とを映して、青羅紗の上をなめらかに滑りゆく、赤と白との象牙の球……。
球体派 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
というのは、木の木目きめたまが、頭巾ずきんにも腹のところにも、また、俵の左右の宝球のところにもまるでたまのようにうまく出たのであったので、それが縁喜が好いといって三枝氏が大層よろこんだのでした。
「金ならうんともってるぜ。だが、そのたまはまんまるくないな。」
かなしみに顫へ新たにはぢけちるわれはキヤベツのたまならなくに
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
英語はまだいゝとして、「電球でんきうたま」はどうです。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
何しろ、陸へ上った船乗ですからね。私の気になるのは奴らじゃありません。砲弾です。まるで絨毯の上のたまころがしだ! だれがやったってやり損ねるはずがありゃしません。大地主さん、火縄が見えたら言って下さい。オールで舟を
電燈のたまのぬくもりの
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
電灯のたまの中にも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのうちに、老人の指先には、白いたまがつまみあげられていた。卵大たまごだいではあるが、卵ではなく、一方に黒い斑点はんてんがついていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その真上に重たい銀色のたまをさし出して手を離しながら、すばやく窓を閉めて、耳の穴に指を突込んだ。建物の全体がビリビリとふるえた。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あまりありすぎて、たまをなくすんでしょ。」と、おかあさんがおっしゃったので、おねえさんは、こえをたててわらいました。
ボールの行方 (新字新仮名) / 小川未明(著)