あらわ)” の例文
こういうあらわかたがあるのか、と感心した事があったので、「僕の小説などは決して「見さくる高峰のやうな」ものではありませんが
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
ですがこんな逆境から生れて、しかもそれが美術家たちでさえ、たやすくは生めぬほどの美しさをあらわすのですから不思議であります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
また、一とうしつからも、大臣だいじんや、高等官こうとうかんかおがちょっとばかりあらわれました。しかしそのひとたちのかおは、じきにんでしまいました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
といいながら、はちをつかんでげますと、したから人間にんげん姿すがたあらわれたので、びっくりして、はなしてげていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そしてその味は夏蜜柑ほどっぱくなくて甘味あまみを有している。これは四、五月ごろに市場にあらわれ、サマー・オレンジと称している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
一方国際的には、支那事変が漸く本格的なかおあらわして来て、今更研究どころではないという風潮がそろそろ国内にみなぎり出した時期である。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ニヤリとわらったまつろうが、障子しょうじすみへ、まるくなったときだった。藤吉とうきち案内あんないされたおこのの姿すがたが、影絵かげえのように縁先えんさきあらわれた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かの女はドアのほうへって、それを開けた。そのときこそほんとうにびっくりするものがあらわれた。バルブレンのおっかあがはいって来た。
ことに歌麿板画のいひあらわしがたき色調をいひ現すにくの如き幽婉ゆうえんの文辞を以てしたるもの実に文豪ゴンクウルをいて他に求むべくもあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時、天堂一角は、うでぐみをしたまま、峠の七曲りを見下ろしていたが、何を見出したものか、眉にけんを立てて、にわかにただならぬ色をあらわした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岬の東端の海中には、御前岩、俗に沖の御前ごぜんと云われている岩があって、蒼味あおみだった潮の上にその頭をあらわしていた。
真紅な帆の帆前船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日本の演劇しばいで蛙の声を聞かせる場合には、赤貝をり合せるのが昔からのならいであるが、『太功記たいこうき』十段目の光秀が夕顔棚ゆうがおだなのこなたよりあらわでた時に
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千吉もそれを素振りにあらわし、自分だけをいつまでもくくりつけておく親方への不平をその子供たちに持っていった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そして、自分に学問のないのを思うと、その殴るということさえ、果して正当なのかどうか、ハッキリした理由を云いあらわしかねて躊躇ちゅうちょしてしまったのだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
反対に、お貞さんの方の結婚はいよいよ事実となってあらわるべく、目前にちかづいて来た。お貞さんは相応の年をしている癖に、宅中うちじゅうで一番初心うぶな女であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
反対はんたいに、ちいさなエチエンヌの清浄無垢せいじょうむくなことは、その薔薇ばらいろのふくらはぎに、後光ごこうのようにあらわれているでしょう。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
それを形にあらわして、梓の感情を支配する、すなわち、床しい、懐しい念のすべてをもって注ぐべき本尊、たとえば婦人が信仰の目じるしに、優しい、尊い、気高い
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その行動もあらわになって来る、——そうすると僕はいずれ早晩彼等を撃滅することが出来ることになる。
ハイカラ——高襟は、もっと、ずっと後日で生れた言葉だが、言いあらわすのに都合が好いから借用する。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ほとんどでもくるうかとおもわれましたときに、ひょくりとわたくし枕辺まくらべ一人ひとり老人ろうじん姿すがたあらわしました。
楽隊がくたいがにぎやかに鳴り出しました。と、きえちゃんにふんした新吉が、まずまくのかげからあらわれました。それから、むねに金銀の星のかがやく服を着たわか姉さんが現れました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
当家こちらのお弟子さんが危篤ゆえしらせるといわれ、妻女はさてはそれゆえ姿をあらわしたかと一層いっそう不便ふびんに思い、その使つかいともに病院へ車をとばしたがう間にあわず、彼は死んで横倒よこたわっていたのである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
彼はその後、屡々困難な犯罪事件に関係して、その珍らしい才能をあらわし、専門家達は勿論もちろん一般の世間からも、もう立派に認められていた。笠森氏ともある事件から心易くなったのだ。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある時父兄の前に言出いいいでて、自分は一代法華いちだいほっけをして、諸国を経廻へめぐろうと思うから、何卒どうか家を出してくれと決心の色をあらわしたので、父も兄も致方いたしかたなく、これを許したから、娘は大変喜んで
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
王はよろこびて天神にむかひ、これは雌にしてこれは雄なりと答ふるにその答誤りなければ、天神はまた一大白象をあらわして、この象の重さ幾斤両ぞ、答へ得ずんば国をくつがえさん、と難題をいだしぬ。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お銀様は、その時に、はっと思って自分の姿の浅ましく乱れていることに気がつかないわけにはゆきませんでした。髪も乱れているし、着物も乱れているし、恥かしい肌もあらわになっているものを。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
絵画は俳句と同じく形体は客観描写であるけれども俳句は文字をもっあらわし、絵画は線や色を以て現す相違がある。それ故に絵画はその色彩から来る感じ、線から来る感じが、強く響いて刺戟しげきが強い。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして一目散に駈け出そうとする鼻先へ、不意に人があらわれた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
美しい形をあらわしてお見せ申すのは、1440
時間の悠久をあらわす一種の音象表現である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「ああ、ここまでのぼると、よい景色けしきだ。うみえる。」と、先刻さっきのくわをかついだおとこは、かえでののそばにあらわれていいました。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちにだんだんおさけのききめがあらわれてきて、酒呑童子しゅてんどうじはじめおにどもは、みんなごろごろたおれて、正体しょうたいがなくなってしまいました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
このように野生になっている所では、玉玲瓏ぎょくれいろうと中国で称する八重咲やえざきの花が見られる。また青花と呼ばれる下品な花もあらわれる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そこへ美しい夫人ふじんがわたしと同じ年ごろの子どもをれてあらわれた。わたしをむかえて、まるでわたしが兄弟ででもあるようにあつかってくれた。
高々たかだかのぼっているらしく、いまさら気付きづいた雨戸あまど隙間すきまには、なだらかなひかりが、吹矢ふきやんだように、こまいのあらわれたかべすそながんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それにもかかわらず、自分の母親のお豊はあまりくは思っていない様子で、盆暮ぼんくれ挨拶あいさつもほんの義理一遍いっぺんらしい事を構わず素振そぶりあらわしていた事さえあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし其処そこにはやはり何か本当のものがあるらしく、なるべく特徴をあらわすようにと忠実に描きあげて見ると、やはり蟹の化物ばけものには見えなくて、奇妙な形の蟹に見えるところが面白かった。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
けだし僕には観音経の文句——なお一層適切に云えば文句の調子——そのものが難有ありがたいのであって、そのあらわしてある文句が何事を意味しようとも、そんな事には少しも関係をたぬのである。
土間を正面に見た旦那座だんなざに座っているのが鬼の大将たいしょうであろう。こしのまわりにけものの皮をいて大あぐらをかいている。口の両端りょうはしからあらわれているきばが炎にらされて金の牙のように光っている。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
何しろアデイア青年のような若い者に、その親しく知っている、しかもごく年長の者を、あらわに誹謗すると云うことは考えられないことだからね。まあおそらくはこの想定は大差無いと思う。
夢寐むび雄敵ゆうてきあらわ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怪人かいじんあらわれる
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けっして二姿すがたせまいとこころちかっていたくずも、子供こどもごえにひかれて、もう一くさむらの中に姿すがたあらわしました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしはまずまっ先にあらわれて、ハープにつれて二つ三つ歌を歌わなければならなかった。正直に言えばわたしが受けたかっさいはごく貧弱ひんじゃくだった。
なつってしまい、あきにもなったけれど、このうつくしいくもは、ふたたびのとどくかぎり、そら姿すがたあらわしませんでした。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
花は芍薬に比べるとすこぶる貧弱だが、その果実はみごとなもので、じゅくしてけると、その内面が真赤色しんせきしょくていしており、きわめて美しい特徴とくちょうあらわしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それと共に篇中の人物は実在のモデルによってける人間を描写したのではなくて、丁度アンリイ、ド、レニエエがかの『賢き一青年の休暇』にあらわしたる人物とひとしく
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも窮苦きわまりなきに際して家を教えられたのであるから、事は小なりといえども梓はおおいなる恩人のごとくに感じた。感ずるあまり、梓はなき母が仮に姿をあらわして自分を救ったのであろうと思った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すべて怪物かいぶつは、昼のうちはどこかに姿すがたかくしていて、夜になってあらわれて来るものだということを知っていたので、勘太郎はまず明るいうちに寺へ着いて、どこかに自分の身を隠しておこうと考えた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
この間勿論我が国でも、支那事変が遂に世界戦争の面貌めんぼうあらわして来て「研究どころの騒ぎではなく」なっていたのであるが、英米側にとってみれば、それこそ日本の立場どころではなかったのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)