やわ)” の例文
かがやいて、あたたかなかぜが、やわらかなくさうえわたるときは、ふえうたこえは、もつれあって、あかるいみなみうみほうながれてゆきました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
くきは直立して三〇センチメートル内外となり、心臓状円形で葉裏帯紫色の厚いやわらかな全辺葉ぜんぺんよう互生ごせいし、葉柄本ようへいほん托葉たくようそなえている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
豚は語学も余程よほど進んでいたのだし、又実際豚の舌はやわらかで素質も充分あったのでごく流暢りゅうちょうな人間語で、しずかに校長に挨拶あいさつした。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
様々のあわれはあるが、春の温泉でゆの曇りばかりは、ゆあみするものの肌を、やわらかにつつんで、古き世の男かと、われを疑わしむる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今後の男伊達だては決して威張いばり一方では用をなさぬ。内心かたくして外部にやわらかくなくてはならぬ。むかしの賢者も教えていわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ああいうところには、二度と行くものではないと、彼も民さんの手つだいをしながら、やわらかい日ざしの晩春をたのしんだ。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しんたのむねをりたところに、かたがわには椿つばきがありました。いまはなって、浅緑あさみどりやわらかい若葉わかばになっていました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
初めは、わざと自分をはずかしめるものか? と、あえてそれに抗拒の風を示されていたが、おもむろに、御態度はやわらいでいた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またしてもその手がわたしを押しのける。いかにも愛想のいい、ものやわらかな手つきだが、とにかく押しのけるのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「いいえ。あけない、あけない。おかあさんはもっとつるつるしてやわらかな手をしている。おまえ山姥やまうばにちがいない。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かれくびにはちいさい腫物はれもの出来できているので、つね糊付のりつけシャツはないで、やわらかな麻布あさか、更紗さらさのシャツをているので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一切がひっそりで組合のひとたちが「やわうにバンザイやりましょう」と本当にやわうにそれをやるという式でした。
ツルゲーネフの悲哀ひあいは、そのやわらかみと悲劇性のすがたにおいて、本質的にスラヴ民族の憂愁であり、スラヴ民謡みんようのあの憂愁に、じかにつながっている。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
「小さいどころか、甘露煮にするにはこのくらいがごくだアな。それに、板倉いたくらで取れたんだで、骨はやわらけい」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わらびみてえなものばっかり食ってんのや。……筍はお好きだっか。そうだっか。このへんの筍はなあ、ほんまによろしうおまっせ。それはやわうて、やわうて……
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼のいきり立った気分が、春子にそう言われて、急にやわらぎかけた。しかし、すぐ坐りこむのも何だか恥ずかしかったので、彼は立ったままもじもじしていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
やわらかな愛らしい自然のなかに、小さな木造の家を建てて簡素に住んでいるおだやかな心の人たちとして、この国の生活をゆかしく印象されたのも、これによるのでした。
お客はあたたかいお酒をいただき、おいしい御馳走ごちそうはらいっぱいに食べました。そうして大満足だいまんぞくで、やわらかいふっくらとした布団の中へはいってつかれた手足をのばしました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「南部の侍は貧乏で、腹を切る刀も持たぬが、そのかわり腹の皮はごくやわいで、瀬戸物のカケラでも切れると、いうところを見せてやるのだ。しっかりと見届けてもらいたい」
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なんと皆さん如何いかがで御座る。これが普通の病気であったら。達者な者より大切だいじにされて。医者よ薬よ看護婦さんだよ。やわい寝床じゃ、良い喰べ物じゃと。あるが上にもお見舞受けます。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
牝、牝も骨身……肩、腰、胸、腹、やわずいまで響いてこたえておろうに。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六町間の一角だけがことに堅気な竪筋なので、住吉すみよし町、和泉いずみ町、浪花なにわ町となると、よし町の方に属し、人形町系統に包含され、やわらいだ調子になって、向う側の角から変ってくるのが目にたっていた。
まへ跣足はだしるのかれではどくだと信如しんによこまるに、いよ、れはれたことのぶさんなんぞはあしうらやわらかいから跣足はだしいしごろみちあるけない、さあれをいておで、とそろへて親切しんせつ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この雨の樺太車前草おほばこ踏みやわみ村かたつくと親し車前草
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やわき額をながれけむ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
シグナルは高くさけびました。しかしシグナルも、もうだまってしまいました。雲がだんだんうすくなってやわらかなしてまいりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それは、ほんとうに、愉快ゆかい音色ねいろでありました。ちょうど、やわらかなつちやぶって、がもえるようなよろこびを、きくひとこころあたえました。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
図に乗って、また舌の動き放題ほうだいに、怖がらせをしゃべっていたが、お米に返辞がないので、こんどは少しやわらげて
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半透明はんとうめいにおやかなもやに包まれたかと思うと、その靄の中で、近々とやわらかに彼女の眼が光って、ひらたい唇が熱っぽく息づき、歯がだんだん見えてきて
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
腕組をして枕元にすわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくやわらかな瓜実うりざねがおをその中に横たえている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わか椿つばきの、やわらかいはすっかりむしりとられて、みすぼらしいつえのようなものがっていただけでした。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
お芳は、そのいずれにもあいづちをうっただけだったが、お祖母さんの態度がいくらかずつ次郎に対してやわらいで行くのを見て、内心喜んでいるようなふうだった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その葉面ようめんは心臓形で左右不同の歪形わいけいていし、他の植物の葉とはだいぶ葉形が異なっている。茎とともに質がやわらかく、元来がんらいは緑色なれども、赤味をびているから美しい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
山姥やまうばはまたのすきまから手をしました。こんどは手がつるつるしてやわらかだったので、それではおかあさんにちがいないとおもって、子供こどもたちはをあけて、山姥やまうばを中へれました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
水浅黄ちらめかいて、やわりと背向うしろむきに突着けたですだで。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風烈しき高畑越えて耳やわまだらの仔牛道はかどらず
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ペラペラの桃色の寒天で空が張られまっ青なやわらかな草がいちめんでその処々ところどころにあやしい赤や白のぶちぶちの大きな花が咲いていました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
少年しょうねんいえきかえして、まだつきたてのやわらかいもちをってきて、ちいさくいくつにもちぎって、それをからすにあたえました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると、突然とつぜん——その時なんということが、わたしの身に起ったのだろう! 彼女のやわらかなすがすがしいくちびるが、わたしの顔じゅうを、キスでおおい始めたのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
薄茶色うすちやいろを全体に吹いて、やわらかいこづえはじてんつゞく所は、糠雨ぬかあめぼかされたかの如くにかすんでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、思いがけなくありついた南鐐を懐中ふところにして、お久良と新吉に別れて行こうとすると、猫間川ねこまがわどてに添って、やわい草を踏んで、何か語らいながらこっちへ来る男女がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
タイヤをはずして、チューブに空気を入れて、あかぼううでのようにやわらかくふくれたチューブを水にくぐらせてあなの場所をさがす。ぷくぷくぷくと小さいあわの出るところがみつかる。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「雪がやわらかになるといけませんからもうお帰りなさい。今度月夜に雪が凍ったらきっとおいで下さい。さっきの幻燈をやりますから。」
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
には、くさがしげっていましたが、いまはもう黄色きいろくなって、ちょうどやわらかな敷物しきもののように地面じめんたおれていました。
町はずれの空き地 (新字新仮名) / 小川未明(著)
世の中にこれほど錯雑さくざつした配合はない、これほど統一のある配合もない。これほど自然で、これほどやわらかで、これほど抵抗の少い、これほど苦にならぬ輪廓は決して見出せぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岩間角兵衛は、そうなだめて、巌流の眼がやわらぐのを見てから
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにまあ、なめくじばけもののようなやわらかなおあしに、かたいはがねのわらじをはいて、なにが御志願でいらしゃるのやら。
同時どうじしたると、すぐちかおおきなはいり、四ほうったえだやわらかな緑色みどりいろ毛氈もうせんひろげたように、こまかなが、微風びふうにゆれていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、肩をやわらげた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、その白いやわらかな岩の中から、大きな大きな青じろいけものの骨が、横にたおれてつぶれたという風になって、半分以上掘り出されていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)