つかま)” の例文
町に別嬪べっぴんが多くて、山遊びがすきな土地柄だろう。果して寝転んでいて、振袖を生捉いけどった。……場所をかえて、もう二三人つかまえよう。
側にいた人を押し退けて、安達君の腕をつかまえながら第一着に乗り込んだ。しかし朝の電車は混んでいる。坐る席は無論なかった。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
太い、逞ましい喬木でも、しんが朽ちているから、うっかりつかまると枝が折れて、コイワカガミや、ミヤマカタバミの草のしとねのめったりする。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この八月はちがつ十五日じゆうごにちにはてんからむかへのものるとまをしてをりますが、そのときには人數にんずをおつかはしになつて、つきみやこ人々ひと/″\つかまへてくださいませ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
はなしがトンとはずまない。特に女中をつかまへてキヤツ/\騒ぎ立てる支那人の傍若無人ばうじやくぶじんさに、湯村は眉をひそめてたゞガブ/\酒を呷上あふりあげて居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
腎臓病の青膨れのまま駈着かけつけて来た父親の乙束区長がオロオロしているマユミをつかまえて様子をいてみたが薩張さっぱり要領を得ない。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを聞いていると、捨吉の心はつかまえどころの無いような牧師の言葉の方へ行ったり、自分の想像する世界の方へ行ったりした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はそれが嬉しかつた。奈何どんな尫弱かよわい體質でも、私は流石に男の兒、藤野さんはキッと口を結んでさとく追つて來るけれど、容易につかまらない。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
笹村は、冴え冴えした声でいつに変らず裏で地主の大工の内儀かみさんと話していたお銀が入って来ると、じきにつかまえてその問題を担ぎ出した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この巡査が泥棒などをつかまえに行く時でも決して旅費を持って行かない。行った先で飯を喰い酒を飲み自由自在にやって行く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
従来やり来った翻訳法で見ると、よし成功はしない乍らも、形は原文につかまっているのだから、非常にやり損うことがない。
余が翻訳の標準 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其處そこにはまたれもはるのやうなだまされて、とうからかなくつてかへるがふわりといてはこそつぱいいねつかまりながらげら/\といた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と言ったら、お雪さんが、『まあ! 其様なことまでいうの? 本当に雪岡には呆れて了う。おばさんをつかまえて私に言う通りに言っているのよ。』
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と、言訳をしいしい、その片腕をつかまへて堅く握りつめた五本の指をほどいた。竿から外された片腕は黙つて沈んで行つた。
そんなわけですから、全部架空の事実で、頼家の仮面めん……ただそれだけがつかまえ所で、ほかには何の根拠もないのです。
ローラはこぶしをふりあげながら、あとから追いかけてくる。つかまってはたいへんと、敬二は、ビルの裏へにげこんだ。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「は?——」と立ちどまって、デッキにつかまりながら大沼喜三郎は目をあげた。「おお、あなたは、阿賀妻さん! いかにもこれでおしまいでございますよ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
函館停車場はごく粗朴そぼくな停車場である。待合室では、真赤にくらい酔うた金襴きんらん袈裟けさの坊さんが、仏蘭西人らしいひげの長い宣教師をつかまえて、色々くだを捲いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
由「わしむまをいたゞきたいが、馬にのっかってつかまってヒョコ/\くなア好い心持で、馬をねえ……女中さん」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さあ、つかまつて了つて、其処そこ場図ばつにげるには迯られず、阿母おつかさんはたりかしこしなんでせう、一処に行け行けとやかましく言ふし、那奴は何でも来いと云つて放さない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
神尾主膳はお銀様に刀を見せるのではなく、お銀様をつかまえて刀を突きつけているのでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小雨に濡れながら欄干につかまつてゐると、船は正しくいまこの突き出た岬の端を𢌞つてゐるのだ。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
こうして来る日本の旅客をつかまえ、案内役を引き受ける以外に方法はないであろうと察せられる。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そうして年々としどし頻繁に、氏神其外の神々を祭っている。其度毎に、家の語部大伴語造おおとものかたりのみやつこおむなたちを呼んで、之につかまえ処もない昔代むかしよの物語りをさせて、氏人に傾聴を強いて居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
かすんだやうな平次の頭にも、これだけの記憶がよみがへつて來ました。今日までに毒矢の曲者をつかまへる筈だつたのが、天井裏に閉ぢ籠められてすつかり豫定が狂つてしまつたのです。
「さうだ、罰だもの。わしもさつきから、どうもこの人がつかまらないから變だと思つたんだ。」
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
しゆはあたしにくださらなかつたので、しゆぞくするものつかまへたくなつてたまらない。さてこそ、あたしは、ヷンドオムのから、このロアアルのもりりて幼児をさなごたちをけてた。
しっかりつかまってろ。(切れた捕縄を投げて)さあ、そいつにつかまれ——あがって来い。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
吾々は紙に印刷した日附だの文字だのでさういふものを捉へようとするが、つかまつた試しはめつたにない。それなら、房一が盛子の何気ない一言ですつかり感動してしまつたのはどうしてだらう?
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
つくゑまへにマツチはつて、かれれをてゐながら、其癖そのくせ大聲おほごゑげて小使こづかひんでマツチをつていなどとひ、女中ぢよちゆうのゐるまへでも平氣へいき下着したぎ一つであるいてゐる、下僕しもべや、小使こづかひつかまへては
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は此の男をつかまへて来たことを悔恨した。自分自身の行為を憤ふる気持で一杯になった。先刻、此の男を引張って来た時の誇らしげな自分が呪はしくなった。その時、部長は彼の方を向いて云った。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
一台のくるまが勢よく表通りからその横丁へ曲って来た。幌をはずして若い女が斜めに乗り、白い小さい顔が幸福そうに笑っている。見ると、俥の後に一人若い袴をつけた男がつかまり、俥と共に走っていた。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つかまえてくれ。そいつが曲者だ。そいつが本当の曲者だ」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ゆき子はいま恐るべき殺人団の手につかまっているのだ。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子蛙が眼子菜ひるもの茎につかまつて泣いてゐると
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
あの心をきうきうきゆつとつかまへてゐる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
隣家となりの書生が木刀を握って武者慄いをした。お歌さんは乃公の手をつかまえている。捉えているのか捉っているのか分らない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夫人 (間)私には厳しく追手おってかかっております。見附かりますと、いまにもつかまえられなければなりませんものですから。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃木山は、一時下火になつてゐた牛込の女が、ちやうど好い旦那をつかまへたところで、好い意味での紐か好いひとといつた格で、その辺で遊んでゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さうして卯平うへい菓子くわしつたみぎひだり袖口そでくちからして與吉よきちせる、與吉よきちはふら/\とやうやあるいてつては、あたさう卯平うへいつかまつてたもとさがす。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人の事を浮気者うわきもんだなンぞッてののしッて置きながら、三日も経たないうちに、人の部屋へつかつか入ッて来て……人の袂なンぞつかまえて、はなしが有るだの、何だの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と御隠居さんが言葉を掛けた頃は、裁縫師は柿田の腕をしつかりつかまへた。それを親しげに組合せるやうにして、物をも言はせず経師屋の外の方へ連れ出した。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ですから私、何度逃げ出したか知れやしない。……その度毎に追掛けて来てつかまえて放さないんだもの……はあッ! 一昨日おとといからまた其の事で、彼方あっち此方こっちしていた。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その事件はセライ・アムチーの住んで居った家の前大蔵大臣及び大臣の官邸に在る老尼僧、それからその下僕げぼくの大臣に最も親しくして居った者一人がつかまって下獄された。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
先刻さっきも云った通り、巡査が一度追掛おっかけたことも有ったが、到頭とうとうつかまらなかった。何しろ、猿と同じように樹にも登る、山坂を平気でかける、到底とても人間の足では追い付かないよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例のドレエフス事件の折などは、自分も進んでその関係者の一にんとなつただけに、新聞記者につかまつて、大袈裟に畳み掛けた質問にでも出会でくはしはしなからうかと怯々びく/\ものでゐた。
両手をのばして、彼はかたわらにあった大きな角材を、その角のところでつかまえていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
驚いたな、どうも、先刻さっき子供達が河岸っ縁でつかまえて、自身番へ持って来ましたよ。緋鹿ひかの結綿で足を縛られて、その上くしを差し込んであるんだから、どんな烏だって飛びやしません。
遊「なかなか逐返らんのだよ。陰忍ひねくねした皮肉な奴でね、那奴あいつつかまつたらたまらん」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先生は南北戦争の逸事いつじを話して、ある夜火光あかりを見さえすれば敵が射撃するので、時計を見るにマッチをることもならず、ちょうど飛んで居た螢をつかまえて時計にのせて時間を見た、と云う話をされた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)