ずし)” の例文
それは床から五フィートばかりの壁に設えたずしの中に納められてあった。淡い間接照明の光は、奥深い洞穴の様な感じを与えていた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて呉羽之介は堂内正面に安置された仏壇に似たずしに近づき、その扉をば又も鍵で押明けさてこの内に雪洞を差しつけ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
竜宮から小槌こづちを貰ったって、振ってもたたいても媽々かかあは出ねえ。本来ならずしに納めて、高い処に奉って、三度三度、お供物を取換とっかえて、日に一度だけ扉を開いて拝んでいなけりゃ罰が当ら。……
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無住むじゅうの廃寺にきしる戸の響きは、音なき山里に時ならぬ木霊こだまを送りました。荒れはてた床を踏んで内に入り、燈火を高く掲げた時、仏壇の前方、並ぶずしの中央に世尊の顔が幻の如く浮び出ました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)