鬱悶うつもん)” の例文
すると新吉の血の中にしこりかけた鬱悶うつもんはすっと消えて、世にもみず/\しい匂いの籠った巴里が眼の前に再び展開しかけるのであった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それとなく胸中の鬱悶うつもんらした、未来があるものとさだまり、霊魂の行末ゆくすえきまったら、直ぐにあとを追おうと言った、ことばはしにもあらわれていた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人或は一見して云はむ、これ僅に悲哀の名を変じて鬱悶うつもんと改めしのみと、しかも再考してつひにその全く変質したるをさとらむ。ボドレエルは悲哀に誇れり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かつまた不如意ふにょいで、惜しい雲林さえ放そうとしていた位のところへ、廷珸のあなどりに遭い、物は取上げられ、肋は傷けられたので、鬱悶うつもん苦痛一時にせまり、越夕えっせきしてついに死んでしまった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかして、その心に病苦を感じ不快を生ずるは、いわゆる身部の影響、心部の上に及ぼすものなり。これに反して、憂苦鬱悶うつもんして疾病を生ずるがごときは、いわゆる心部より生ずる病なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)