ぎょ)” の例文
彼女の乗り馴れた銀毛の駒も、この小仏越えにはぎょしきれまいと思ったので、それは麓にあずけて来て、今朝は菅笠すげがさ紅緒べにおの草履。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼鈴よびりんはげしくならして、「矢島をこれへ。」と御意あれば、かしこまりて辷出すべりいづるおはした入違いりちがいに、昨日きのう馬をぎょせし矢島由蔵、真中の障子を開きて縁側にひざまず
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ玉菜の数が多くて、たかだかと虚空こくうそびえているような気がした。僕はこの光景にひどく感服した。ひとりの翁が車上にあって、二つの馬をぎょしている。
玉菜ぐるま (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あっ、姉は澄ましてぎょしてゆく。うれしい緑のこぼれ日、こぼれ日、こぼれ日。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「彼は、ぎょしがたい小人にはちがいないが、自分とは幼少からの朋友だ。しかもたしかに功はある者。それを私憤にまかせてみだりに斬り殺したのは怪しからん」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは彼が、ここ十年ばかり仕えて来た信長をも——旧主の三好長慶みよしながよしや、前の足利将軍や、あらゆる旧態人のように、あまくぎょせるものと見くびっていたことだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三井も、小野も、ぎょしやすしと見たように、乱になった宴席を、眼の隅でにやにや眺めていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだまだ、本牧の風車の下で、関内の安ッぽいお吉や、似て非なる亀遊の髪あぶらのにおいを嗅いで、うつつを抜かしているてあいなどは、至って、ぎょしよい異人たちであるのだ。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ彼は兵法の「策」をもって彼らをぎょそうとしているのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)