餌壺えつぼ)” の例文
大きな鉄製かねせい鳥籠とりかごに、陶器でできた餌壺えつぼをいくつとなく外からくくりつけたのも、そこにぶら下がっていた。その隣りは皮屋であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文鳥は気でも違ったように、小さいつばさをばたばたやる。その拍子ひょうしにまた餌壺えつぼきびも、鳥籠の外に散乱する。が、男は面白そうに、ただ敏子を眺めていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
餌壺えつぼえさを入れてやると、いきなりくちばしの先でとびかかって、あたり一面にき散らしてしまう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
水入みずいれ餌壺えつぼ引繰返ひっくりかえっている。あわは一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠のさんにかじりついていた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
籠の底に飛び散る粟の数は幾粒だか分らない。それでも餌壺えつぼだけは寂然せきぜんとして静かである。重いものである。餌壺の直径は一寸五分ほどだと思う。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
餌壺えつぼにはあわからばかりたまっている。ついばむべきは一粒もない。水入は底の光るほどれている。西へ廻った日が硝子戸ガラスどを洩れて斜めに籠に落ちかかる。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)